2019-01-19

●『オブシェクタム』(高山羽根子)、よかった。「文藝」に載っていた、芥川賞候補になった小説(「居た場所」)はそこまでよいとは思えなかったのだけど(優等生っぽいなと感じてしまった)、こちらはとても面白かった。作家のやりたいことを、よりダイレクトにやっているというか、資質がより生かされているように思った。
文芸誌とか、芥川賞とか、そういう方向ではなくて、どちらかというと、天沢退二郎とか、稲生平太郎とかに近い匂いがするように感じた。そこまでディープにファンタジーに入っていく感じではなく、現実的な生々しさもあり、また具体的なイメージの解像度がより高いのだとしても、その具体的なイメージの配列によって結ばれる焦点の在処というか、作家を動かしている指向性としては、そっちなのではないか、と。
「居た場所」では、個々のイメージたちの配列がひとつの焦点---あるいは「深さ」のイリュージョン---をつくりださないように、多焦点的になるように意識的に配慮されていたと思うのだけど、「オブジェクタム」では、イメージは深さのイリュージョンを生むように配列されていて、その深さのイリュージョン---それは消失点としての謎の感触と一種のノスタルジックな感傷をともなう---のありようやその感触こそが、この小説の独自の質をつくりだしているように思われた。
(「居た場所」の方が現代小説っぽくて高度だともいえるのだけど、その「現代小説っぽさ」が、どこか無理して装われたもののような感じがしてしまい、「オブジェクタム」にある俗っぽさの方に、作家の美点が出ているように感じられた。)