7時半に部屋を出る。バイトへ。どんより重たく雲のかかった空。それほど冷えてはいない。犬をつれた母娘と擦れ違う。切符売り場には少年野球軍団がざわざわ。やたらと声の高いおばさんが、電車から一度降りて、駅を間違えたと気づき、何かぶつぶつ言いながら再び乗り込む。席に座って、今日はマイルス・デイビスの「 ウイー・ウォント・マイルス 」電車が動き出す。向いの席にカップル。一見、若作りだけどけっこう齢くってる。二人でセザンヌ展のチケットを手に何やら話しているが、ヘッドホンでマイルス聴いてるから、何を話してるのかは不明。女の子は赤いベレー帽を被ってる。二人とも80年代風。
陽は出ていないものの、あたたかな午前中。乾燥した落ち葉を踏む、かさかさした音と、足先の感触。駐車場に停めてある車のナンバープレートが、くの字型に曲がっている。アスファルトの上の白線にヒビ。テニスコートを囲っている柵の直線が、曇った空を幾つかに切断している。基地へと向かう米軍機四機。ゴーッという音。壁に立て掛けられたまま置き去りのモップの、湿ったオレンジ色の頭が垂れ下がっている。冬枯れの赤茶色の枝の跳ねるような曲線。陸上競技場のトラックの赤土の上を歩くと、サクサクサクと、とてもいい音。遠くから、ピッピッピッピッピッピィーッ、と笛の音が規則的に聞こえる。紅葉した葉の赤。赤。赤。黄。赤。黄色くなった葉の間を複雑に走る黄緑の線=茎。工事中の空き地にカラスの群れ。空中で旋回。ブルドーザー。ショベルカー。黄色。掘り返され、露出した土。柵に取り付けてある南京錠。金属の冷たさ。日陰に、何日も前から残っている足跡。その上を歩く。ゴミ箱に捨ててあるたくさんのテニスボール。黄色。
午後になると雲が少し切れて、陽が差してくる。西日が当たって眩しい。壁に、窓の形をした光の塊。隅の方に揃えて置いてある一組のサンダル。
十五時過ぎ、すっかり雲は切れ切れに散らばって、青白い空。それとともに気温が下がってきた。天気予報では、夕方からところにより雨、ということだったのに。強く眩しい西日が木の陰に隠れた。
二十一時過ぎ、思ったほどは冷え込まなかった。チャリンコで坂を登るときの、両足に掛かる強い抵抗感、負荷。左右に揺れながら一漕ぎ一漕ぎ登って行く。登っては下り、また登る道。道のまん中に倒れたままで捨ててある錆びた自転車。金属のポールとチェーンの鉄臭い匂い。触ると手が真っ黒に汚れた。