天気予報では、一日中晴れて風も弱く、暑い日になるとのことだったが、午後3時ころ、急に一転してみるみる日が陰り、雲が空を覆って、強い風がびゅうびゅう吹きはじめた。ごうごうと音をたてて。道行く人が次々と、立ち止って、掌を上に向け、空を見上げる。雨ではない。しばらく立ち止った後、髪の毛やら、シャツやスカートやらの裾を押さえて、足早に走ってゆく。
電車の窓から。山の斜面の、一面の黄緑色のなかに、あちこちにちらちらと、目をひくような紫色。ふさ状の花がいくつも集まって垂れている。たぶん藤の花。野生の奴。今まで藤棚みたいなものしか見た事がなかった。この、黄緑色のなかの僅かな紫は、かなり衝撃的な色。
大学前の工事現場の壁のカラーリングは本当に何とかしてほしい。なるべく目に入らないように、足元だけを見つめ、息をつめて早足で通り過ぎるのだけど、多分、その間、心拍数や血圧に変化が生じていると思うほど。趣味が悪いとか、もうそんなレヴェルじゃない。直接フィジカルに作用してくる。見えてはいない時でも、あそこにあれがあるのだ、と意識しただけで、悪寒がはしる気がするくらい。どんなに酷い色でも、せめて一色でベタッと塗りつぶしてくれればなんとか耐えられるだろうに、御丁寧に最悪の配色でチラチラと細かく塗り分けられているからたまったもんじゃない。
森のなか、というほどのものではなく、まあ、小さな山の一部を残した緑地なんだけど、そういう場所は、何度も通っている場所にもかかわらず、植物たちの生育工合とか、光の加減とかによって、全く違った印象になってしまって、方向を失ってしまうということがある。今日も、いつもの道からほんの数10メートル奥に入っただけなのに、全く方向感覚がなくなってしまい、自分が深い森の奥にいるかのように錯覚して、パニック寸前というところだったけど、まあ、ちょっと冷静になれば、笑ってしまうようなバカなことで、どっちの方向へ向かったって、20分も歩けば嫌でもどこか外へ出てしまうのだったが。