ジャン・ユスターシュ『ぼくの小さな恋人たち』『アリックスの写真』

ユーロスペースで、『ぼくの小さな恋人たち』と同時上映されている『アリックスの写真』は、20分にも満たない短編ながら、とても興味深い。写真家が友人に対して、自分の撮った写真についての説明を語ってゆくのだが、そのコメントの内容と、画面上に示される写真が次第にズレてゆくさまを、たった4つのカメラポジション(そのうち1つは冒頭の1ショットに使われているだけなので、実質3つのポジション)だけで簡潔に示している。まあ、言ってみれば、映像と言語との関係の曖昧さとか、結びつきの恣意性のような事を表してると言えるのだろうが、それよりも興味深いのは、この2人の登場人物の関係の方にある。ここでは女性の写真家が、彼女よりやや年下と思われる男性の友人に向かって、ほぼ一方的に、自分の写真についてのコメントだけを喋り、男性はただ、ああ、とか、うん、みたいな調子で相槌を打っているだけで、それ以外の言葉は全くなくて、ただ机の上の写真を示すショットと、2人が並んで腰を下ろしているツーショットの単純なくり返しのみがあるだけなのだけど、ただこれだけのことで、この2人の普段の関係のあり方や、なんとなくだけど性格のようなものまで感じられてしまうし、見方によっては、女性が男性を性的に誘惑している、もしくは挑発しているという風に読めないこともない。つまり、このごくシンプルな映画作品が示してしまっているのは、誰かが何かについて語るという場合、その場にあらわれるのは、語られている何かについての言述だけではなく、語る者と受け取る者との関係性であり、だから言葉を発することは、何かについて述べるということよりも、その二者の関係の間に何らかのアクションを起こし、その関係に変化をひき起こそうという行為である、ということなのだ。簡単に言ってしまえば、言語におけるコンスタティブな内容とパフォーマティブな効果のズレであり、そのズレがひき起こすごくごく微妙な波風が、このとてもシンプルな映画作品を、とても繊細に震わせているのだと思う。