春の日

ナマリ色の重たく曇った空。そこから染み出てくる光。汗ばむような陽気。いくら眠ってもまだ眠い。重たい目蓋、重ったるい身体。電車に揺られている。低い振動。午後過ぎの空いた電車は、時間調整のためいくつもの駅でしばらくの間留まることになる。うとうとと眠ったり起きたりしているので、はっと目覚めて、随分と長いこと停車したままだなあ、と思うと別の駅だったりする。都心に近づいた駅で、リクルートスーツの新人風の集団によって、電車は予想外の混み方をする。どこから紛れ込んだのか、蠅がブンブン飛び回っている。半分以上眠りの方へと落ち込んでいた灰色の意識が、けたたましい車内放送で現実へと引き戻される。「お急ぎのところたいへん申し訳ありません。ただいま、車内でお客様同士のトラブルがありました関係でしばらく停車いたします。」どろっととろけたようだった車内の空気が、ちょっただけピッと張りつめた感じになる。