那須博之『ビー・バップ・ハイスクール/高校与太郎音頭』とデパートの屋上

昨日観た、那須博之ビー・バップ・ハイスクール/高校与太郎音頭』の雑多な出鱈目さを観ながらぼくが思い出していたのは、ちょうど「休日のデパートの屋上」のようなザワザワした感じだった。地方都市にある、中途半端な規模のデパートの、何とも中途半端な屋上の休日。囲いのなかには100円入れると何分間か走る乗り物が何台があり、狭いところをぐるぐる回っているだけの汽車の遊具にまばらに子供たちが乗っていて、空には何故か吊られた万国旗が舞っていたりする。一角にあるゲームコーナーには、もぐら叩きやバスケットゲーム、UFOキャッチャー、その他流行からズレたゲームが置いてあり、その隣にはソフトクリームや焼そばなんかを売っている売店、その前あたりに、ペンキの剥げたテーブルやイスが置かれている。テーブルには赤、青、黄色の色褪せたパラソルがついていて、屋上の強い風に煽られてパタパタはためいている。エレベーターで上がってきて屋上へと出る出入り口の附近は、小さなペットショップがあって、いかにも病気を持っていそうなインコや、ケージの中で弱りきっている子犬などが、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。そんな屋上でも休日にはそれなりに人出があって、普段はひっそりしている仮説ステージで、仮面ライダーショーとか、地元のアマチュアバンドのへたくそな演奏などが行われていて、そのまわりには人が集まっている。ステージでの演奏などは全く気にしない様子で、ゲームコーナーからはピーピー、ピコピコと騒がしい電子音が溢れ出ているし、金属ポールのやや高い場所に取り付けられたスピーカーからは、エレクトーンで演奏されたイージーリスニングの音楽が流れつづけている。人目に付かない裏の方には、錆び付いた鉄板やら、壊れたイス、季節外れの「氷」と書かれた看板などが無造作に重ねて立て掛けてある。家族連れや、どこか冴えない感じのカップルたち。ソフトクリームで服を汚して親から怒られている子供、買い物の途中で喧嘩になり、ムスッとして口を聞かない両親、ウァー、とかガーとかいきなり奇声を発する子供、手持ち無沙汰でひっきりなしに帽子や髪の毛をいじっているカップルの女の子、100円で走る乗り物で前の車にぶつかり、その拍子にハンドルに頭をぶつけて泣き出す子供、ベンチに座ったまま長いことボーッとしている老人、ペットショップで子猫が欲しいとグズっている子供、デパートのマークの入ったカッコ悪いエプロンをつけているやる気のないアルバイトのがさつな動作、汽車に乗っている子供に声をかけて写真を撮ろうとしている父親、非常階段の脇でたむろしているヤンキーたちのまったりした雰囲気。強い風の音、風がのぼりや旗をビュービュー鳴らす音、ゲーム機やスピーカーからの音、人々の話す声が四方八方から湧きたってきてゆらゆら揺れる、すぐ下を走る自動車の音、遠くを走る救急車のサイレン、館内放送で迷子のお知らせ...。世界の雑多さ、騒々しさ、溢れ出てくる様々な表情たち。つまり『ビー・バップ・ハイスクール/高校与太郎音頭』とは、そういう映画なのだった。