『動くな、死ね、蘇れ!』(カネフスキー)

●日々の生活が、辛いとか、厳しいとかいう思いに圧迫されてしまうような時には、『動くな、死ね、蘇れ!』(カネフスキー)のような映画を観るとよい。(ぼくは新宿のツタヤでビデオを借りた。)全く逃げ場もない、どうしようもなく過酷な環境のただなかにいて、それを生きる人たち(そしてその環境そのもの)が、ナンセンスにまで達しようという圧倒的な強さでたちあがってくるので、その強さの前では絶望とか悲嘆とかでは足りず、もうそれは唖然と眺めつつ爆笑する以外にどうしようもなく、その(自分が笑っているかどうかも分からないうちに笑っているような)笑いのなかで、自らが置かれている環境と自分の感情とが固着してしまっていた状態の底が抜け、その抜けた底からさわやかな風が吹き込んでくるからだ。(「人間」や「内面」などという問題が、無いとは言わないまでも、とるに足らないものではないかと感じるのは、ポストモダン的な言説によってでは決してなく、このような作品を観ることによってなのだ。)勿論、映画を観たくらいで、自分や自分の置かれている状況がかわるはずなどないのだが、少なくともそこに充満する「空気」はかわる。これは「それなりに」は重要なことだと思う。ただ、この映画はあまりに強い「劇薬」なので、全く逆の、最悪の効果があらわれてしまうこともあり得るかもしれないのだけど。(しかしこの映画は、その「最悪の効果」すらも呑み込んで、肯定してしまうだろう。)