●エレベーターホールのガラス面いっぱいに、向かいのビルの屋上に設置された巨大な電光看板の点滅が貼り付いたように見える。アルファベットの大文字5つが青く点滅し、その白い背景が右から左へと流れる。向かいのビルよりもこちらの方が高い。ガラス面に近づいて見下ろすと、向かいのビルは最上階がスポーツクラブか何かになっているらしく、暗闇にぽっかりと浮かぶ横に長い窓から、天井のライトをきらきらと反射させてたゆたう青い水面がぼうっと光るように見えた。おそらく人の頭だろうと思われる黒くて小さな粒が、ゆらゆらと揺れながらゆっくりとその水面を移動してゆく。反響する水の音、水の匂い、鼻の奥にまで水が入ったツンとする感じ、が、記憶の底から軽く、薄く、沸き上がってくる。遠くまで伸びている道路では、車のライトがずっと先までつづいている。