ある犬の話

●何日か前、テレビのバラエティー番組の、素人投稿ビデオの海外編みたいなので観て、気になった映像。夢中になって骨に齧りついている犬が、耳の後ろを掻く自分自身の後ろ足を、餌(骨)を狙っている敵と勘違いして、威嚇し、噛み付こうとする。自分自身の頭部に威嚇された後ろ足は、一旦掻くのをやめて引っ込むのだが、頭部が前を向き骨に向かうと、再び性懲りも無く、耳の後ろあたりを掻こうと伸びてくる。後ろ足が耳の後ろに触れたとたん、頭部は素早く反応し、振り返って、ものすごい勢いで後ろ足を威嚇する。後ろ足は気圧されて引っ込む。頭部は前を向く。するとまた後ろ足が....、以下、何度もくり返される。こういうのを観ていると、身体というものが、決して統一された一つの塊としてあるのではなく、複数のバラバラなシステムが同時に(勝手に)働いている場所としてあるのだと感じる。おそらくこの犬にとって、後ろ足で耳の後ろあたりを掻くという行為は、「意識」を通過することなく、耳の後ろあたりに違和感を感じたら(と言うか「感じる」と意識化される以前に)自動的にそのように動くようにセットされていて、もう一方で、餌を見つけたらそれに意識を集中させ(おそらくここには「意識」のようなものがあるのではないかと想像する)それを必死で確保し、それを他の個体に渡さないようにするという行動もセットされていて、それら二つの異なるシステムが、おそらく、餌に向かってゆく(あまりに)強い集中によって切り離され、恊働的に働かなくなって、バラバラに作動してしまうということなのだろう。これを見て、バカな(強欲な)犬だと思うのは簡単だけど、こういうことは、人間にも普通にあり得ることだと思う。(例えば、喋る回路と聞く回路が切り離され、恊働しなくなると、誰かがテレパシーで頭のなかに入り込み、何か命令を下している、というように感じられる、とか。)