●住んでいるアパートは、三本の道が矢印のように交わる三叉路の、矢の先の場所にあって、アパートから出て、三つに分かれる道の真ん中の道はゆるい上り坂で、右の道は下り坂、左の道は平坦につづく。駅に行くには、右の道を下ってゆくのだが、駅のすぐ先にある銀行に行くときは、真ん中の道を上って行く。どちらにしても線路には突き当たるのだった。右の道は小高い丘を大きく回り込みながら下って駅へと至り、真ん中に道は、ゆるやかに上って丘の頂上まで達し、それから階段で急激に下る。真ん中の道のゆるい勾配をまっすぐに(そして、ゆっくりと)上ってゆくと、突き当たりには二階屋があって視線を遮っているのだが、その家の右側に回り込む道を行くと、すぐに視界がひらけて、この辺り一帯を高い位置から見晴らすことが出来る。それほどには寒くない今日の空は、晴れているが、冬にしてはやわらかくでぼうっとした曖昧な青をしている。千切れた雲が散っている。そこから傾斜の急な階段を下り、路地裏のような細い道を曲がり、やや広い道に出て、そこをしばらく直進するとその道は車道に遮られる。車道を横断して、そのまま直進して行くと、踏切に突き当たるのだった。(銀行にはこの踏切を渡って行く。)この、車道と線路とは、東西にずっと先の方まっすぐつづいているので、比較的小さな建物がごちゃごちゃと建っている一帯のなかに鋭い切り込みがはいったようで、(高いところから見下ろすのとはまた違った感覚で)視界が先の方まですうっとひらけるのだった。どこまでも伸びてゆくようなまっすぐな道に、冬の低いところから射す光が眩しく反射して、遠くの方までがぎらつくほど鮮明に見える。