●ヘリコプターのプロペラの回転音が空からパラパラと降ってくる。ほとんど静止しているような緩慢な速度で低いところを飛んでいるので、さっきからずっと聞こえつづけている。買い物の帰り道、平坦な道から、次の角を右に曲がると、ゆるい上り坂になる。空はぼけたような甘い青で、薄い雲が、空と雲との境界線を曖昧にするように、かすれて広がっている。空はぼやけているけど、道路の脇にある排水溝にほんのわずか残っている水の溜まりに、日の光が鋭く反射し、目を眩しく射る。日は強く射しているのだ。今年は、花粉症の症状が割と軽く済んでいるので、外を歩くことがそれほど苦にはならない。家と家との隙間から、高台の上の方の緑が霞んでいるのが見える。ベランダの手すりに肘をついて立って、表の通りをほんやり眺めている初老の女性がいる。このおばさんは、ぼくがこの道を通る時、けっこうちょくちょく、こうして表を眺めている。ヘリコプターを見ているわけではないみたいだ。