●梅雨も半ばになり、随分と緑が濃くなってきた。四谷駅のホームで電車を待っている時に見上げた木々の緑のなかに、金柑の黄色い実がなっているのをみつけた。地元に帰ってきたら、駅や買い物の帰りにいつも通る角の家に生えている金柑の木から、実が、道にいくつか落ちていた。その一つを拾った。匂いを嗅ぐ。苦みの混じった柑橘類の匂いとともに、手の中にある、たった一個のごく小さな金柑の実の、黄色と言うか、オレンジ色のイメージが、感覚のなかで大きく広がってゆき、部屋へ帰る道々で見かける濃い緑や、そこここで華やかに咲いている紫陽花のクールな紫と拮抗するくらいに強いものになる。金柑の実を持ったまま部屋へ入る。落ち葉や木の実や木の枝は、拾って持って帰ってそのままアトリエにずっと置いておいても大丈夫だけど、金柑はこのまま置いておくと腐ってしまうなあ、と思いながら、そのオレンジ色のものをアトリエのイスの上に置く。