三鷹天命反転住宅内覧ツアー(1)

荒川修作がつくった、三鷹天命反転住宅の内覧ツアーに参加させていだだいた。武蔵境の駅からバスに乗って、大沢という停留所で降りてすぐの交差点の先に、それは建っていた。思ったよりも目立たない(浮いていない)感じで、外観は割と普通に見えた。完成予想図みたいなのを見ると何か「凄いことになっている」感じだけど、道を歩いていて外壁がピンク色のメルヘン調の建物などを現実に目てしまった時の「うわぁ」という異様な感じはなくて、周囲の建物にストンと馴染んでいるようにさえ感じられた。基本的に、いくつかのユニットの組み合わせの規則的な繰り返しによって出来ているので、一つ一つのユニットの形や色がやや奇異にみえたとしても、『キッカイくん』(永井豪)の家みたいな感じとはまったく異なる。色彩の使い方も、美的に調和しているわけではない(勿論、それを拒否しているのだろう)にしても、ことさらギトギト、ギラギラしているという程ではない。(我々は普段、もっと派手な配色を日常的に目にしてしまっている。例えば、近くにあるマクドナルドの看板と比べれば、天命反転住宅の色彩の方がずっと落ち着いたものと感じられる。)
一つの階に三つの部屋。三階建てなので9部屋(2LDKと3LDK)あり、そのうち4部屋入居者がいる(二階は全て埋まっている)。入居している人は全て賃貸契約で、購入した人は一人もいないそうだ。入居者のいない部屋を三つほど見せていただく。三階の2LDKと3LDK、一階の3LDK。一階の部屋は、荒川氏が帰国した時にレクチャーに使われたり、大学のセミナーなどのために時間貸しをしたりしているそうだ。
部屋は、基本的に円形の空間で、そのまわりに、立方体だったり球形だったりする空間が、三つ、なしいは四つくっついている、というか、せり出している。(うち一つはシャワーとトイレ、2LDKでも3LDKでも、「スタディ」と呼ばれるらしい球形の部屋が必ず一つある。3LDKには円形の畳が敷かれた和室があり、2LDKにはない。おそらく、外観は、この内部の空間の都合で決定されたものに過ぎず、だから外観の形象そのものに、何らかの美的、あるいは象徴的な意味はないと思われる。)部屋の真ん中がすり鉢状に低く沈んでいて、中心に柱がある。沈んでいる部分がキッチンで、コンロ(iHクッキングヒーター)や流し、食卓があり、対面型キッチンがまるく輪になっているというか、キッチンと掘り炬燵が混ざっているような感じになっている。キッチンのまわりを囲む空間は、フラットな部分がまったくない(一部、冷蔵庫置き場だけフラットになっているのが不思議だ)、デコボコした広がりになっている。砂利道のようにザラザラで、お椀くらいの凹凸もあり、左官屋の手でつくられたという複雑な傾斜が仕掛けられている。(夏は裸足だと気持ちいいと思うが、とても冷える。)砂の粒の荒い砂丘がそのまま固められた感じと言えばいいのか。ここでは真っすぐ立つために、常に身体のバランスを微妙に調整する必要があって、長い時間立っていると、ふくらはぎや股や腰に軽い張りを感じ、負担がきているのが分る。その外側に、部屋というか、空間のユニットが、くっついている、というか、張り出している。
シャワーは、SFに出て来るガラス張りのカプセルみたいで(例えば『エヴァンゲリオン』で綾波レイが培養されているカプセルみたいなかたちで)、水が漏れないように密閉される。(でも、透明なので目隠しは無い。)トイレは、そのカプセルの裏にあって、カプセルによって一応視線は遮断されるけど、空間としての明確な仕切りはない。(部屋には、和室の障子を覗いて、出入り口以外の扉=仕切りがなく、全ての空間が繋がっている。ただ、すべてが開けているわけではなく、隠れられるような「視線の陰=隅っこ」はいくつもある。)事務所の方の説明によると、中心にキャンプファイヤーのような火と水があって、周囲の「穴蔵」にそれぞれ寝に帰って行く、というイメージだそうだ。収納スペースがほとんどないかわりに、天井に無数のフックが埋め込んであって、物をここに「吊るす」ことで収納のかわりにする、ということだった。フックは一つで、150キロくらいの重さには耐えられるらしい。
デジカメは一応持っていったけど、あえて写真は一枚も撮らなかった。写真を撮ろうとすると、写真を撮るような目で、つまり、写真になったときにキマるアングルを常に探るみたいな目で、どうしても見ることになってしまいそうだったから。というよりも、実際は、見るので精一杯で、写真を撮ろうとするような余裕がなかった、といった方が正確だろう。
並びにあるパン屋には、天命反転パンというパンが売っていた。(とりあえずここまで。つづく。)