08/01/31

●『夜の天使』(ジャン=ピエール・リモザン)をビデオで。観たことあるはずなのに全然憶えてなくって、あれ、こんな映画だったっけと思い、ジュリー・デルピーはいつになったら出て来るんだとか思って観ていたのだけど、どうも『天使の接吻』と勘違いしていたらしい。決してつまらなくはないのだけど、すごく面白いというほどでもない。面白い場面とかけっこうあるのだけど、いまひとつ何かが足りない感じ。いかにも、ヌーヴェルヴァーグ以降の(シネフィルのつくった)フランス映画という感じに納まってしまっているからなのだろうか(その形式性や批評性、「ジャンル」に対する距離感=依存度などが「いかにも」な感じ)。八十年代というのは世界的にこんな感じだったんだなあということの内部にしかなくて、そこを突き破って出て来るものがないというのか。ただ、観たのは随分前で、記憶もおぼろげなのだが、『天使の接吻』はもうちょっと、微妙であることの妙な面白さがあったように思うのだけど。
でも、ラストはやたらとよかった。『夜の天使』ってこういうことか、と。それまで、内面も感情もみせずに無為に犯罪を繰り返していた主人公が、自分の犯罪がバレて捕まることよりも、彼女に自分の身分をいつわっていたことがバレるのが嫌で急に気弱にぐたぐたになって、その彼女も、それまで主人公には大して気がないような感じだったのに、ふいにあらわれた主人公を屈託ない笑顔でうれしそうに迎え、主人公が手錠をされていることを隠したまま、この映画でほとんどはじめて幸福そうな感じで二人が抱き合い、しかしそれは長くはつづかず、後始末があるからと彼女は去り、主人公は手錠を隠しながら彼女を見送る。このシーンはこの映画で唯一、奇跡的に二人の感情が素直に流れることが可能だったというシーンであるように思った。