●とりあえず部屋のなかにある換金出来そうなギフト券とかビール券とかを探してかき集め、金券ショップまで行って(勿論電車には乗らずに歩いて)換金して、五千円くらいにしかならなかったけど、まあ、少しは助かったと思って帰って来たら、振込日、前倒し出来ました、というメールがきていてほっとした。無理を聞いていただき、たいへんにありがとうございます。助かりました。ここしばらくの偽日記は、貧乏ネタ(今日は一日、豆腐一丁しか食べなかった、とか、五百円拾って命拾いした、とか、近所の家の庭の枇杷をかっぱらって食べた、とか、紅茶の同じティーバックを四回使った、とか)で押していこうと思っていたのだが、そうしなくてよくなったみたいで、よかった(貧乏生活そのものは厳しいけど、貧乏ネタを書く事はけっこう楽しいのだけど)。昨日、『天然コケッコー』(くらもちふさこ)を三巻まで読んで、すっごい面白いけど、先を読むのはとうぶんの間お預けだなあと思っていたのだが、続きを買ってきても大丈夫そうだ。
●『天然コケッコー』(くらもちふさこ)一〜三巻。5日の日記に、映画について「山下敦弘すげーっ」ということを書いたら、確かに山下敦弘はすごいけど、あの映画がああなっているのは、原作があってこそなのだ、というメールをいただいたので、読んでみることにした。パイロット版のような「性格の良い大沢くん」は、そんなに面白いとは思えなかったのだけど、本編にはいってぐっと面白くなり、特に、キャラクターがこなれてきて、余裕がでてきたように思われる三巻目は、どの話もすごく充実していて驚いた。マンガ家って、これを毎月一本ずつ描いているんだから、半端じゃなくすごいと思った。
キャラクターというのはおそらく、最初は、ある設定(フレーム)の内部での形態の配置のようなものでしかないのだろうけど、描いてゆくということは、最初は配置された形態でしかなかったものから、そのなかにある様々な潜在的
可能性を引き出してくる、ということなのだなあと思った。最初は、ありがちな設定でしかなかったもののなかから、どれだけ豊かにその潜在性を具体的なものとして引き出せるのかが、作家の能力ということになろう。そしてそれは、一話、一話積み重ねられる時間的な展開のなかで、ひろがってゆく。マンガが「連載される」ということは、その作品の進展にとって多分に綱渡り的なことなのだろうけど、その綱渡りの時間によってこそ、設定されたキャラでしかなかったものから、その登場人物でしかない固有な何かが作り出されてゆくのだろう。
映画もまた、時間的な展開をもつのだけど、映画は、はじめから一時間半なり二時間なりという確定された上映時間があり、その中での、場面の順番や濃淡やリズムが配置される。だけど、マンガの連載は、最初の設定を、事前には、どこまで伸びて行くのか分らない、どこまで展開可能なのか分らない時間のなかで展開させてゆくということが、おそらく全く違うのだろう。おそらく、単純にキャラ立ちという観点からすれば、映画の大沢とそよの方がキャラは立っているように見えて、原作では長く続く分だけ、キャラとしての明確さはぼやけているのだろうけど、しかし、その行き先不透明なブレも含めて、それぞれのキャラクターはある。例えば、最初は、ただ大沢にあこがれて、一方的に「見て」いるだけだった内気な「あっちゃん」が、三巻目の海に行くエピソードで、逆に大沢から「妙な目で見られる」キャラにまで発展してゆくということは、おそらく作者にも描く前(設定の時点)では予測できなかったのではないだろうか。それは、それぞれのキャラクター、それぞれのエピソードが、一つ一つ描き連ねられてゆく時間によって、はじめて出て来るもののように思えた。(最初から、ちょっと無神経なところがあるという設定だった伊吹ちゃんの、「猥談好き」という属性は、一体どの時点で思いつかれたのだろうか、とか。このようにして、キャラに備わっていた潜在性が徐々に具体性を得てゆくことによって、人物が生き生きと動きはじめるのだと思う。)そしてこの作品では、キャラクターの潜在性の開示は、キャラクターとキャラクターとの関係の接触や摩擦の具合によって開かれているように思われる。
この作品では、人物同士の関係の感触と、それに引きずられて開示されるキャラの潜在性の具体化によって、生き生きとした動きが生まれていて、だからこそ、ベタな設定のベタなお話が、こんなにも充実したものとなるのだと思う。
●明日から(現物が到着次第ということになるけど)、「組立」展の行われているmasuii R.D.R galleryで、『世界へと滲み出す脳』(http://www.seidosha.co.jp/index.php?%C0%A4%B3%A6%A4%D8%A4%C8%DE%FA%A4%DF%BD%D0%A4%B9%C7%BE)を販売します。ギャラリーで買うと一割引で買えます。amazon(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4791764226/seidosha01-22)やbk1(http://www.bk1.jp/product/03017422)でも、もう予約できるみたいです。あと、ぼくは、明日は一日ずっとギャラリーにいる予定です。