●電車に乗って外を見ていたら、水が並々張られた学校のプールが視界をよぎり、生徒たちが泳いでいるのが一瞬見えて、そこに射す光を見て、もう完全に夏の光なのだなあと思った。住んでいるアパートの最寄り駅の一つ手前で降りて、一駅分歩くことにした。光が強いのに、遠くがぼうっと白く明るく霞んでいるような感じは、すっかり夏の真昼なのだった。遠くがうっすら霞んでいるのに、遠くのものが近づいて見えるような、望遠レンズ的な視覚。
緑も濃く、それが跳ね返す光も濃い。温度と湿度が上がると、においが強く感じられるようになる。植物は、種類によってにおいが異なるので、歩いていて、通り過ぎる家の庭木の種類によって感じるにおいがかわってくる。においが強くなるのは植物だけでなく、アスファルトのにおい、干された洗濯物からのにおい、土のにおい、水のにおい、人の汗や体臭なども、強く感じられ、においは移動するにしたがって変化する。ある程度の年齢になってから、じっとりとした蒸し暑さが決して嫌いではないことに気がついた。