パスクリンナイト ! ! !

●京橋のフィルムセンターのPFFの特集上映で、『パスクリンナイト』(香川まさひと)を、24年ぶりに観た。高校生の時に観て、半端ではないショックを受けた、八ミリでつくられた自主映画なのだが、さすがに今観ると、随分色あせてしまっているのではないかという気持ちも事前にはあったのだが、八ミリフィルムの「物」としての劣化(退色とか、音の劣化とか)がやや気になったものの、作品としての鮮度はまったく失われていないくて、そのことにすごく驚いた。上映中も、かなり頻繁に笑いが起こっていたし。これは本当に奇跡的な傑作で、この映画がすごいとちゃんと分った高校生の時の自分を褒めてやりたいくらいだった。この映画のフィルムがちゃんと残っていることに感謝したい。
八十年代というのはロクな時代ではなかったと基本的には思っているのだが、『バスクリンナイト』を生み出すことが出来たということだけで、「日本の八十年代」もそんなに捨てたものじゃないと、そこにも充分な意味があったのだと思える。この映画はそのくらい八十年代の空気と不可分で、その空気を純化して抽出し、圧縮したような作品なのだが、そのような作品が、ノスタルジーなどとは関係なく、今でも自律して、充分に面白いことがすごいのだ。この映画では、最初から最後までほぼずっと、八十年代の歌謡曲がかかりっぱなし(一部途切れる部分があることを、今回観て気付いた、その途切れるタイミングもまた素晴らしい)なのだが、この映画を観ていると、実は八十年代の歌謡曲はすごく過激だったのではないかと勘違いしてしまう。それはまったくの勘違いなのだが、その勘違いを、観ている間だけは真実にしてしまうくらい、この映画はすごいのだ。(歌詞と、物語の内容--といってもまったくのナンセンスなのだが--が、微妙にリンクしているところもすごい。)
とにかく、この映画のカット割りと、それによって生まれる映画としてのアクションとリズムは、一度観ただけでは受けとめきれないくらいに複雑で精緻に(かつ、きわめて強引で粗雑に)出来ていて、出来ればもっと何度も観せていただきたい。(カット数がすごく多いので、撮影に時間がかかってしまっていて、一つのシーンのなかで、光りが、昼間からあっという間に夕方になってしまったりするのだが、それも含めて面白い。)『バスクリンナイト』は、ほぼ全編歌謡曲が流れっぱなしなので、著作権上、ソフト化されるのはほとんど不可能だと思うのだが、こっそりDVDに焼いて、裏ビデオみたいに、一部の好事家のためにこっそりと販売していただけないのものだろうか。(まあ、販売はともかく、フィルムの状態をみると、是非、デジタル化して保存していただきたいと思うのだか。)