●今日はまだ、思いっきり夏だった。
●なんだかんだあって、ようやく歯医者に行けた。歯医者に行ったのは六年ぶりくらいで(その頃は国民健康保険じゃなかった)、というかそもそも、医者にかかったのが六年ぶりくらいなのだった(そもそもぼくの経済的生活は、病気や怪我はしない、という前提でようやく成立しているのだった)。今、住んでいる辺りに越して来て二十年になるけど、その間、歯医者に通ったことは三回あって、そのどれも、今日行ったY歯科医院で、最初、不慣れな土地で歯医者に行かなくちゃならなくなった時、どこがいいんだろうと思っていて、ちょうどその時に、駅のホームで、「あそこの先生はいい先生で」というおばちゃんたちのうわさ話を聞いて、じゃあそこに行ってみようと思って行ったら大当たりで、とても丁寧に治療してもらえて、それ以来、歯医者と言えばそこに行くのだった。
歯医者に行く必要のない時は、歯医者の存在などすっかり忘れているのだが、六年ぶりに訪れる歯医者は、前に来た時と、その内部の様子や雰囲気も、中尾彬みたいな声の口数の少ない先生の感じも(患者には優しいが、歯科助手にはちょっとキツい感じ)、治療する椅子に座った時に正面の窓から見える外の風景も(歯医者は三階にある)、まったく変わってなくて、その変わってなさによって、前に来た時から今までの時間が押し流されてしまうかのようだった。それとはまったく逆の感じなのだけど、ぼくが歯医者の存在などすっかり忘れている間もずっと、この先生は自分の職場であるここに毎日通って、患者を治療しつづけていたのだなあという、当たり前のことに、この世界の厚みのようなものを凄く感じもした。
ということで、ここ数日ずっと前歯が一本欠けた状態だったのが、ようやく仮歯が入った。待合室で待っている間、『のだめカンタービレ』の原作を、はじめて、ちょっとだけ読んだ。