●吉祥寺のA-things(http://athings.exblog.jp/)で展示されている西原巧織さんの絵画作品は、個々の作品の質や完成度や出来不出来というよりも、そこでやられている絵画的なアイディアというのか、絵画を構成している語彙の豊かさに圧倒される。いや、語彙の豊かさというのではなく、あらゆるちょっとしたことがらから、絵画を構成する要素に成り得る部分を、驚くほどの柔軟さと的確さでひきだし、そこから絵を組み立てることの出来る能力に興奮させられる。一見なんでもアリっぽい感じでありつつ、それらが見事に絵画というメディウムと接続させられ、しかしそれらの要素が完全には絵画に吸収され切るのでもなく、やや浮いたような違和感を残しているところがまた刺激的なのだ。これらの作品を観ていると、こちら側が囚われている頭の固さや臆見がふわっと解かれて、あっ、こういうのもアリだし、こういうのもアリなんだよなあ、と、画家としての絵を描く感覚がぐらぐらと揺さぶられ、かきたてられるかんじがする。西原さんのやっている「これ」を、これとは違った、こういう方向へ発展させることも可能だろうなあ、という風に、ぶっちゃけ、パクれる要素もいっぱいある。そしてなにより、年間で250点近いタブローを制作するという、作家に絵を描かせる、そこで「動いているもの」が強く感じられるところが、こちらの絵を描きたいという欲望を強、く駆り立ててくるのだった。
A-thingsからすぐ近くにある、来週の18日にトークイベントをやる「百年」(http://100hyakunen.com/)にはじめて立ち寄る。店内をぶらっと眺めて、「エピステーメー」のラカン特集(ラカンによる、メルロ=ポンティについてのテキストが載っていたので)と、よしながふみのコミックを手にしてレジに持ってゆき、レジにいた男性に「古谷です」と言ったら、その男性が店主の方だった。しばらくその場で話をしていたら、レジに本をもってきた女性が「近藤です」と言うので驚いた。イベントでご一緒する近藤直子さんと偶然かち合ったのだった。せっかくなので、喫茶店で軽く打ち合わせのようなことをした。さらにその後、近藤さんと食事をして、もう少し突っ込んだ話をした。偶然にお会い出来てよかった。
「百年」では、残雪の『突囲表演』を新刊書として定価(2381円+税)で売っていた。この本は、普通古本屋では五千円から六千円くらいの値段で売っているのだ(しかも、なかなか出回っていない)。ところで、『突囲表演』は今読んでいる途中なのだが、全然先に進まなくて困っている。密度が濃過ぎて、というか、どの部分も面白過ぎて、じっくりとしか進めず、さらに同じところを何度も読んだりもしてしまう。さらっと流して読むことが出来るところが全然ないくらい面白い(しかし、それについて何かもっともらしいことを言えと言われると、とても困ってしまうような小説なのだが)。来週までには最低限、『突囲表演』を最後まで読んでおくこと、『暗夜』に収録されている短編を集中して何度も読み込んでおくこと、『魂の城』の、せめて『城』について書かれた部分はきちんと読んでおくこと、くらいのことはやっておかなくてはいけないと思っているのだけど、もともと本を読むのがとても遅い(最近、増々遅くなっている)のと、残雪の文章はどれも、どの部分も、凄く濃厚で、かつ本気度が半端ではなくて、読む方もかなり体力が必要なので、これだけのことでもとても困難に感じられる(しかしその困難は、きっと幸福なものだろう)。同時に書評の原稿を一つ書く約束もあって、この一週間はずっと、これらの本を読むことだけで費やされると思われる。