●雨のなか傘をさして散歩。途中、ものすごい巨木が庭にある農家の、門の脇の無人販売所にあった柿の色に惹かれて、それを買った。次郎柿、二百円と書かれていた。貯金箱みたいな料金入れに百円玉を入れると、ガチャンという予想以上に大きな音がした。かなり大きな柿が四つ、ビニールの袋に入っているのだが、手提げみたいな感じにはなってなくて、片手に傘を持って、もう一方の手で胸に抱えるように柿を持って、そのままずっと散歩をつづけた。歩いているとき、胸のあたりの柿は目の端にも見えていないのだが、そこにあるオレンジ色をずっと意識していた。
イチョウの葉には、ツンとするような匂いがあるのだが、落ち葉が雨に濡れて、その匂いがいっそう際立っていた。
●散歩をしていると、体の表面はどんどん冷たくなるのだが、体の芯はどんどん暖かくなってくる。逆に、喫茶店にいって長い時間じっとして用事をしていると、体の表面は火照るようにあたたかいのだが、なんとなく芯が冷えてくる。この、表面と芯との温度差の感じが、冬なのだった。
●部屋には、暖房器具が電気ストーブしかなくて、電気ストーブはその暖房効率に比べて電気代がかさむので、冬の間の電気代は普段の三倍から四倍くらいになってしまう(うちは、アトリエとして使うため、三部屋分の仕切りをとっぱらって広いスペースをつくってあるので、なおさら暖房が効かない)。だからなるべく暖房は使わないようにしていて(今年はまだ一度も使ってない)、冬の間部屋にいる時は、誇張ではなくまさにダルマみたいにぶくぶくに着膨れするほど重ね着をしている(布団も薄いのしかないので、そのぶくぶくのまま寝る)。何年も前に人からいただいたハンテンは、冬の間じゅう部屋にいる時はほとんどずっと羽織っているので、さすがにもうボロボロで、ところどころ破けてなかの綿が露出してしまっている。今日ではないけど、たしか散歩の途中で店先にハンテンがぶら下がっていた店があったので、今年は買い換えようと思うのだが、あの店はどこにあったのだったか(というか、いくらくらいするんだろうか)。
●ぼくは手袋があまり好きではないので、部屋の中でも外でも(冬の間は外よりも部屋の中の方が寒い)手袋をすることはほとんどなくて(そもそも手袋をもっていない)、冬の間はずっと手が冷たい。マフラーはあるのだが、マフラーを巻くのって、なんか恥ずかしい感じがする。
●十月から十一月の中頃までは、人前に出たり、人に会ったりする機会が多かったのだが、これから年末にかけてはその予定がほとんどない。怠惰なので、外に出る予定がない限りは、ほとんど髭も剃らないし洗髪もしない。髭が濃いので、三日も剃らなければ、山にこもっていたいた人、みたいな感じなにる。部屋にこもっているのならよいのだが、そのままの感じで散歩にいったり、喫茶店とか買い物とかにいったりして、一応帽子はかぶるけど髪もぼさぼさで、おそらく外見はいかにも「アンダーグラウンドな運動」とかやってそうな感じに見える(昼間からぶらぶらしているし)と思うので、近所で何か事件とかあると、真っ先に警察に呼ばれそうな気がする。さすがに、外に出るときは、ぶくぶくの着膨れではないし、ハンテンも脱ぐけど。
●これから年末にかけてやらなければならない、ひたすらストレスが溜まる用事があって、今のところそれは順調なペースで進んでいる。全体の四分の一くらいが終わった。このままのペースでつづけられればいいと思う(この用事をずっとやっているので、雨の日でもストレス解消のために散歩にゆく)。
●ずっと壊れたまんまで放置してあったファックス電話機を、ようやく買い替えた。
●巨木のある農家で買った次郎柿は、すごく甘かった。甘いのだが、そのなかに微かに、舌が痺れるような渋味も混じっていた。