●明日、明後日と出かける予定なので、映画作家についての原稿を、なんとか今日じゅうに書き出してしまわないと、書き出しそびれてしまう。今日じゅうに書き出さなければ、という胃に重たいプレッシャーとともに、朝、目が覚める。文章を書くのに、なにより書き出す時がもっとも力が必要だしプレッシャーもかかる。特に、依頼されて締め切りのある原稿は、一度書いたものを、部分的に修正することは可能でも、頭からすべて書き直すということは、時間的に不可能に近い。だから書き出しで間違うと、その原稿はどういじっても、けっきょくは面白くはならない。書くことの内容はある程度頭のなかにあっても、それをどこから始めるのがよいのか、どんなタッチではいってゆけば、それがよい感じで転がってゆけるのか。最初に書き出す1行は、その先に大きな影響を及ぼす。パソコンで書いているのだから、文章はいくらでも編集できる。前後を入れ替えたり、挿入したり削除したり修正したり、最後に書いた文章を頭にもってきたりも出来はする。しかしそれも含め、書くことは実際に書いているその時間そのものの展開の内部にあり、書いているその時間の展開や質によって決定されることにかわりはない。最初の一筆は、その時間の展開全体に影響してしまう。だから書き出すことからは常に「逃げたい」という気持ちが湧いてしまう。とりあえず書き出しさえしてしまえば、あとはなんとか…、と思うのだが。
と、ぐたぐた泣き言を言いつつも、なんとか書き出すことが出来、最初の十枚ちょっと分まですすんだ。十枚くらいあれば、あるトーンは出来ているので、明日、明後日と一時中断しても、書いたところを読み直せば「書く感じ」に戻ってこられるだろう。ただ、観た映画の細部を一部忘れているところがあるので、もう一度DVDを借りてくる必要があるかもしれない。