忌野清志郎が亡くなったそうだ。特にファンだったことはないけど、中学生の時、タモリオールナイトニッポンの時間に行われたRCサクセションのライブは、今でも幸福な記憶として残っている。タモリRCサクセションとの幸福な出会いという、奇蹟的な出来事がこの世界では起こるのだということを、素直に信じられるのが八十年代のはじめ頃という時代だったと思う。タモリRCサクセションが幸福に出会うことが出来るような、そのような肯定的な力が働いている磁場に向かってこそ、自分は進んでいかなくてはいけないのだ、と、中学生のぼくは思ったのだった。
●今月の一日に何軒かギャラリーをまわった後、日比谷から有楽町駅に出て、線路沿いに、東京駅を通って地下鉄の大手町駅まで歩いた(神楽坂まで行くために)。この間、高架下というかガード下にはずっといろんな飲食店が並んでいて、それを眺めながら歩くのは面白かった。とはいえ、ぼくは貧乏なので基本的に外食はしないので、外観や装飾や空間が面白そうだったり怪しそうだったりすると思っていながらも、では、その店に入って何かを食べてみようとか、一体どんな食べ物が出て来るのだろうかとか、というところまでは想像が及ばない。想像出来ない、のではなくて、想像しない、のだ。可能性のないこととして、意識に上る以前のところで、あらかじめ想像力がブロックされてしまっているのだと思う。お金がないということは、様々なものにアクセスする権利をあらかじめ奪われているということであり、はじめからアクセス出来る可能性のないものには、自然とそちらへ想像力が向かないようになってしまう。財布のヒモを硬くすることは、そのまま頭を硬くすることに繋がる。でも、それはすごく貧しいことだ(とはいえ、徹底的な倹約家というのは、また、まったく別の、広大で深淵な想像力の発露としてあるのだと思うけど)。だからやはり、お金はなくても、後で困ることは目に見えていても、何か気になったら無理してもお金を使わなくちゃいけない。これからあたたかくなるので、ガスくらい止められてもなんとかなる。
●で、今日は、原宿駅から表参道を歩く。表参道も凄い人出だが、明治通りと交差すると、明治通りは流れが滞って歩けないくらいに人が多い。そのまま直進して、最近オープンした話題のブランドショップの看板だけを振り返ってチラッと見る。ローソンのところを左折して、裏原宿へと入って行く。この辺りには何年か前に個展をしたギャラリーがあった。その場所には、今は何も入ってなくて、テナント募集の張り紙があった。そのまましばらく歩くとVacantに着く。まだ時間が早いので、しばらく辺りを散歩する。この辺りは道が入り組んでいるし、それだけでなく、いろんなものや人や建物が入り交じっているので、歩いているだけで面白い。
●Vacantのオープニングイベント。神村恵×福留麻里のダンスは、スペースが狭過ぎることや、床が板敷きではなくリノリウムで滑りが悪く、へんに柔らかいこと、会場が、ダンスを観るというよりクラブのイベントのような空気だということ、などにダンサーが苦労している感じがかなりあって、充分に力が発揮されているとは思えず、アサヒ・アートスクエアでのダンスを100とすると、65から70くらいの感じだった。それでもかなり面白いし、また観られてよかった。会場が狭い分、ダンサーと近かったし。ダンサーは嫌かもしれないけど、また機会があったら別のスペースで再演して欲しい。
しかし、それ以外のパフォーマンスが、あまりにゆるゆるというかぐたぐだというか、要するにヌルくて、最初の神村×福留のダンスだけ観てさっさと帰っちゃえばよかったと、だんだんテンションが下がってくる。作品というものに向かう態度として、それはあまりに緊張を欠いているんじゃないかと、イライラしてくる。ユルい、ということが、何の前提にも保証にも頼らず、そのユルさの質それ自身に支えられてある、というのではなく、既に、「ユルくてOK」みたいな文脈が共有された前提としてあった上で、その文脈の上にあぐらをかいているかのようなユルさに苛立つ。まあ、作品というよりも、あくまでイベントなので、会場が適当に湧いたり、笑いが起きたりすればそれでいいのかもしれないのだが。とはいえ、最初のダンスのテンションに対して、それはあまりに失礼ではないかという気持ちになる。帰るタイミングを逸してしまったと思いながら、仕方ないのでだらだら観ていたら、最後から二番目に出た、「ビッチェズ・ブリュー」(多分)でヒップホップダンスを踊った人(KENTARO!!という人らしい)が面白くて、ああ、ここまで観ていてよかった、というか、最後の方で再び引き締まって、ぐたぐたな感じのまま帰ることにならなくてよかった、と思った。(もしかしたら、このKENTARO!!という人は、横浜でやった「we dance」の時、きたまりのアフタートークに出てた人だったんじゃないだろうか。)