●必要があってスーツを買いにいった。スーツ単体ならば、今、夏物は値引きになっているし、安いものを探せばなんとか買える。そういう算段だった。しかし、スーツを買うということは、同時に、ワイシャツを買い、ネクタイを買い、ベルトを買い、革靴も買わなければ意味をなさないのだということを、スーツを選んでいるときに気づいた。えーっと思った。予定していた予算の倍くらいのお金がなくなった。ちょっと、泣きそうです。
普段、スーツなど着ないだけでなく、街で、スーツ姿の人にことさら注目するということもないので、勝手がまるでわからず、店員のお兄ちゃんの言われるがままに(「こういう感じか、でなければ、こういった感じになりますが」「じゃあ、こっちで」)、その店で一式選んだけど、革靴だけは高くてそこでは買えず、もっと安いのを探すことにした。だが、ぼくが「高い」と思った値段がだいたいどこの店でも最低ラインだったみたいで、いくつか店をまわってみても、似たような値段だった。スーツと一緒に買えば少し値引きすると言っていたし、あの店で一緒に買ってしまったほうがよかったのかも、と後悔した。
ダメもとで立ち寄った最後の店で、隅っこの方に一足だけ、いかにもぞんざいな扱いで置かれていた半額値引きの処分品が目にとまった。サイズがひったりだった。シンデレラになったような気持ち。あきらめないで探してみるもんだ。折れかかった心が、すこしだけ上向いた。
でも、このスーツ、一回しか着ないという可能性大。