●ドンドンとドアを叩く音で目が覚める。きっと原稿料だと思って、寝ぼけたままドアを開ける。湿った空気と雨の匂いが部屋に入ってくる。粒の細かい雨だ。サインして、書留を受け取る。書留と一緒に、スーツを買った店からのDMも渡される。
傘をさして部屋を出る。途中で一度、傘を閉じる。しばらく歩いて、また傘をひらく。そういう降り方の雨。作品論を書き始める。今日は何を食べようかと考える。喫茶店では連日、バイトの面接をしているようだ。そんなに多くの人員が必要な店とも思えないので、面接を受けた人の多くが落とされてしまうんだな、と思う。そういえば自分は、面接で受かったためしがないな、と思う。隣の席ではおばちゃんが、親戚の息子の嫁がタトゥーをいれていることについて、何かごちゃごちゃ言っている。あー、なんかめんどくせえなと思う。