●キャベツが安い。丸ごと一個買ってきて、手でちぎって、塩こしょうをまぶし、オリーブオイルを垂らして、スナック菓子みたいにバリバリ食べる。気がついたら、ポテトチップスを一袋食べてしまっていた、という風に、気がついたら、キャベツを丸ごと一個食べてしまっている。しかし改めて、ついさっきまで目の前にあって、今は芯だけが残っているあのキャベツ一個が、まるまる胃の中に入っているのだとイメージすると、急に膨満感が…。
●年末には出るはずの本のために、以前書いた、文芸誌などに載った自分の文章のいくつかを読み返す。読み返すのが怖かったのだが、思いの外面白く読めて、ちょっとほっとする。岡田利規論とか、古井由吉『白暗淵』論などは、一年半とか、それよりも前に書いたものなので、何を書いたのかほぼ忘れてしまっていて、おお、こんなことを書いていたのかと、新鮮に読めた。岡田利規論の最後の方を読んでいて、ちょっと泣きそうになった。自分の書いたものを読んで泣きそうになったのではなく、自分が書いたものからかすかに響いてくる岡田利規の作品の感触に、泣きそうになったのだった。改めて、「わたしの場所の複数」や「フリータイム」がきわめてすぐれた作品であるということを思った。そして、ぼくが小説について書くということは、良い作家や良い作品に対して、出来る限り良い読者であろうと努力するということ以外のことではないのだ、とも改めて思った。