●ちょっとした覚え書き。
今、祖母は入院してしまって実家にいないのだが、正月に実家に帰った時は元気で家にいた。祖母の部屋はリビングから引き戸一枚隔てたところにある。祖母の部屋にあるテレビは長く使っている古いもので、アナログ放送を受信する。リビングのテレビは比較的新しいもので、地デジに対応している。ぼくが住んでいるアパートの部屋のテレビはアナログなので知らなかったのだが、地デジ放送はアナログ放送よりも零点何秒か遅れる。
だから、祖母が自分の部屋に戻って(耳が遠いので)かなりの音量でテレビを観ていて、それと同じ局の番組をぼくがリビングで観ていると、祖母の部屋から漏れてくる音が先に聞こえて、それにつづいて、やや遅れて目の前のテレビから画面と同期した音が聞こえてくる。これはまるで、こだまが前倒しで聞こえてくるというか、残像が実像に先立ってやってくるというか、目の前の人が喋ることを一瞬はやく予感出来て、その予感通りに現在が遅れてやってくるというか、そういう奇妙な時間の感覚で、とても気持ちが悪かった。いままでにそんな経験はしたことがない、という感覚だった。