●夢。数十人で列をつくって駅からの長い道のりを歩く。知っている人は少ないが、友達の友達のまた友達という感じで、皆、誰かしらの知り合いであるはずだ。おそらく、以前にも何度か通った道で、以前にも何度か行ったことのあるらしいの場所を目指している。川沿いの道を行き、大きな車道を渡って、しばらく車道に沿って進み、畑の間の畦道に入ってゆく。誰かがいきなり肩を組んできて、こういう鬱陶しいことをするのはきっとナカジマだろうと思いつつもそのままにしてしばらく歩くが、ふと、その相手がまったく知らない男であることに気づく。相手も間違いに気づいたようで、気まずそうに腕を解いて、分かれ道で別の方向へ行ってしまう。もうすぐ目的地に着くはずだという場所に来て、こっちの道を入ってゆくとハーブ園があると誰かが言い、寄っていこうよと何人かが言い、列の進行が滞る。もうすぐ着くのにめんどくさいなあと思う。
行き先は大きなマンションの一室にあるプライベートギャラリーで、展覧会のオープニングにあわせて作家の講演があり、その作家の友人たちが揃ってそこへと向かっていたのだった。入り口にはオートロックがあって、そういえば前に来た時もそうだったと思い出す。しばらく待っているとオーナーが出てきて、皆さんが一番乗りですよ、と言って迎え入れる。大勢がわーっとマンションの一室に吸い込まれる。多くの人は良い席をとるために真っ先に講演会場へ向かい、作品を観てまわっているのはごく限られた人数だった。広い空間はいくつにも仕切られていて、どのスペースにも、こちらの体の動きを著しく制限するように作品が配置されている。気をつけて観ていても、いくつかの作品と接触して、倒したりしてしまう。別の観客から、あ、こいつやりやがったという目で見られる。
講演会場には、ふかふかのマットが敷き詰められていて、さらにマットが何段かの段差をつけて山のようにかなり高く積まれていた。一番高い場所が演壇だった。「あの頂きの、王座になっているところが、あなたの席ですね」と作家に言う。演壇に近い、高い部分は、もう既に客たちが大勢いた。楽しそうなので上までよじ登ってみるが、ぼくが登ると山がぐらぐらして崩れそうなので、すぐに降りた(ここで、崩れてしまった、という場面の記憶もあるのだが)。低いところで横になって観ることにした。しかし、横になったら眠くなって、寝てしまう。途中で何度か目が覚めて、上を見上げて、ああ、やってるなと思い、耳を澄まそうとするのだが、また眠ってしまう。
目が覚めると既に講演は終わっており、オープニングのレセプションがはじまっていた。一緒に来た人達はあらかた帰ったようで、客は入れ替わっていた。隣にいた知らない男から、「○○さんを紹介して下さいよ」と言われるが、○○さんの名前は知っていても面識などないので、「嫌ですよ」と言う。だいいち、○○さんはすぐ眼の前にいて、二人の会話も聞こえているはずだ。グラスをもらってソファーに座ると、また眠ってしまう。
目が覚めるとあたりはすっかり真っ暗で、客も閑散としていた。すっかりくつろいでしまったなと思う。テラスに出て、人に時間を聞くと、「三時半ですね」と言う。意味がわからなかった。こんなに真っ暗なのに三時半ということはないだろうと思うのだが、しかしすぐに、それが午前三時半であると気づいて愕然とする。そんなにずっと眠っていたのか。「ゆっくりと歩いてゆけば、駅に着く頃に始発が出ますよ」と男は言う。ほら、と言って男が指さす先を見ると、真っ暗ななかを歩いている人影がかすかに見えた。
帰り道はもう明るかった。何故かカワイくんと一緒だった。カワイくんとは三十年ぶりくらいのはずだ。線路が何本も通っている広い踏切を渡る。途中で、カンカンカンカンと警報音が鳴り出し、その音量はしだいに大きくなってゆく。あわてて渡り切ろうとするのだが、踏切の出口側が切り立った崖のようにせり上がっていて、うまく登ることが出来ない。