●その前を通ると、お婆さんが、いつも二階のベランダから通りをぼんやりと眺めている家があった。外を見るのが楽しみで眺めているというより、どこか虚ろで、もてあます時間が耐えがたいといった感じで。通り過ぎるたび、その様子が心にひっかかった。今日、久しぶりにその家の前を通ったら、家が解体されている途中だった。あのお婆さんは亡くなったのだろうか。
通りから、表側を見るだけでは、その家のなかの感じは分からない。その敷地の奥行きがどれくらいなのかも、よく分からない。しかし、解体の途中に通りかかると、ああ、中はこういう風に仕切られていたのかと、その空間の感じが多少うかがわれる。そこにこめられていた何かが、どっと外へ流れ出しているようですらある。プライベートな空間としてずっと閉じられていたものが、一瞬だけ外気に触れ、開かれ、そして消えてゆく。