●思いの外面白くて、『熱海の捜査官』を最後まで、DVD四本分一気に観てしまった。面白いと言っても、作品として面白いというのではなく、気楽に楽しめた、という感じだけど。しかしそれがとても貴重で、ぼくは最近、がっつりとハードなもの、こちらが集中して全力で取り組まないと太刀打ちできないようなものしか面白いと感じられなくなってしまっていて、気軽に読み流せるような本は五、六ページで飽きてしまうし、テレビドラマやバラエティも五分も観ていれば飽きてしまう(その一方、映画とかは過剰に集中して観てしまい、二時間も見るとがっくり疲れて他のことが何も出来なくなってしまう)。いや、五、六ページや五分くらいの間はちゃんと「面白い」と思っているのだが、ただ、ミエミエの段取りとかがどうしてもまどろっこしく感じられてしまうのだ。というか、段取りを踏んでいる間に面白さの生々しさが消えてしまうのが嫌なので、「常識的な落としどころ」がくる前に自分から半ば意識的に切ってしまう感じ(オチやツッコミによる収束を拒否してボケっぱなしの状態にしておく、みたいな)。ヒューマンでもドラマチックでもないドキュメンタリー(科学ものとか紀行ものとか)や、温泉と食べ物と風景しか出てこないようなどうでもいい旅番組(段取り=物語が希薄なもの)であれば、割合「気楽に楽しめる」感じだけど。
熱海の捜査官』は、集中して見入るほどには面白くはない(密度がない)けど、途中で飽きない程度には面白い(密度がある)という、ゆるーく気楽に楽しむにはちょうどいい感じ。一応筋の通った物語はあるのだが、それよりもゆるやかに関連し合う細かいネタの羅列の方が強い、というのもいいのかもしれない。あきらかに『ツイン・ピークス』なんだけど、これだけこれみよがしに「リンチ的要素」をみっしりちりばめておきながら、作品のあり様はまったくリンチとは関係なくて、リンチへのオマージュというより、リンチを使ってリンチを軽く小馬鹿にしている感じ(むしろ作品の本質は、耽美的な学園もののマンガやアニメに近い感じ)。その、小馬鹿にしてる感(距離感)が嫌な感じではなく、リンチ好きにもにやにや笑って楽しめる塩梅になっている。根本的にリンチと違うのは、最後にはちゃんと分かり易く(常識的に)作品として収束してゆくということ(謎がすべて解かれるわけではないにしても)と、様々な細部があくまで「小ネタ」であって、それ以上の強さも精度も深みも必然性もないというところ。ただ、一つ一つは「小ネタ」といっても、その手数がとても多くて、予想していた感じよりもずっとみっしりぎっしりと盛り込まれている。「オダギリジョー栗山千明で、あー、ちょっとエキセントリックな感じで、こう、いかにもな、センスでもっていくっていう、そういうアレね」というようなものとは全然違っていた。『時効警察』の二番煎じっていう感じでもない。ちゃんとしっかり作りこんである感じ。このくらいの作品が、もっと普通に深夜ドラマとしてたくさんあってくれるとうれしいのだけど。
●ただ、撮影の次元ですごく疑問があって、これは、うちにある古いテレビじゃなくて高画質テレビとかだとちゃんと見えてるのかもしれないのだが、ハイトーンと影の部分とのコントラストを極端に強くし過ぎていて、影の部分を平気で真っ黒に潰してしまっていて、特に屋外の場面で出演者の顔が真っ黒になっていたりするのは、あれは意図的にやっているのだろうか。観ながら、ちょっといくらなんでもそれはないよねえ、と何度も思った。
●あと、ちょっとネタバレだけど、このドラマでは「ライン」を越えるものが、臨死体験と数学と宗教ということになっていて、このトリオがまず常識的というか紋切型なのだが、物語そのものはそんなに重要ではないので、それはいいとして、宗教のイメージがあまりにも薄っぺらというか、紋切型過ぎないだろうかと思う。ここでもう一工夫欲しかった。