●怖かった。というか、怖い。住んでいるところがきわめて古くてボロいアパートなので、倒壊するんじゃないかと思った。揺れる度にすごく嫌な軋む音がして接合部分がいまにも分離しそうな感じだった。とりあえず外に出た。学生の頃からずっと当然のようにボロアパートに住んでいるけどリアルにヤバイんじゃないかと感じたのははじめてだった。過去形ではなく、その恐怖はつづいている。
揺れがいったん落ち着いた後に部屋に戻り、足の踏み場のなく散らばったものたちを足で避けて座れるだけのスペースをつくって、テレビをつけて観た。予想以上にひどいことになっていて驚いた。ひどすぎてなにもいえない。地震が収束したとして、その後いったいどうなってしまうのか。部屋にていてずっとテレビの前にいた。目が離せなかった。時々外に逃げた。救急車や消防車の音が響く。市の広報の放送はちゃんと聞こえた。
テレビのなかの岩手や宮城のスタジオが揺れると、すこし遅れてこちらも揺れた。
今後どうなるか分からないからご飯を食べておこう思い、米を炊いてかますの干物を焼いた(冷蔵庫のなかにこれしかなかった)。揺れが来たらすぐ火をとめられるようにコンロにずっと貼りついた。ご飯が炊けるまでに一度、火をとめて外に逃げなばならなかった。ヒゲを剃った。こんな時でも新聞配達のバイクはちゃんと走っている。
夜になってようやく両親と電話がつながる。拍子抜けするほどあっさりした感じの対応だった。神奈川は一部停電しているところもあると聞いたのだが、実家のあたりはそれほどではなかったのだろう。
最初の揺れの時、部屋から逃げ出してアパートの裏の駐車場から壊れるんじゃないかというほど揺れている建物を見ていた。隣の家の庭の百日紅はぐにゃぐにゃと揺れていたが全然大丈夫そうだった。その後も何度も外に逃げた。揺れている時は重たく曇っていたのに、峠を過ぎると空が妙に澄んでいて気持ちがわるかった。夕日がすごくまぶしかった。
恐怖と興奮とでなかなか寝付かれないので、テレビをつけたまま本を読む。電気が来てくれていて本当にありがたい。少しうとうとできたと思うたびに、地震への警戒を告げる携帯電話の派手な振動で目が覚める。朝方にまた大きな揺れがあった。