●夢の話。真夜中、たった一人で家で留守番をしている。とても心細い。家族(祖父、祖母、父、母、妹、弟、叔父、叔母)はまだ、入院している誰かの付添いでみんな病院につめているから明日の朝まで一人だ。強がって、一人でも大丈夫だなどと言って病院から帰ってこなければよかったと後悔している。何に意地を張っていたのかもう思い出せない。建て直したので今はもうない前の実家の薄暗い奥の六畳間にいる。仕切りの障子は開けてあるので隣の十畳の応接間とその先の八畳間まで繋かっていて、ここ以外の部屋の明かりは消えているが真っ暗ではなく、がらんとした広さが感じられる程度の光が射している。炬燵に入って、時間をやり過ごすためにパラパラめくっていた科学雑誌に付録としてついている実験キッドが目に付いた。説明書きを読むのは面倒なので、適当に、緑色のプラスチック製のバケツに水を入れ、雑誌に添付された袋に入ったきな粉のような粉を流し入れてかき回してみる。しばらくすると、糸くずくらいの小さな魚が二、三匹あらわれ、水のなかでかすかに動く。それをじっと見る。しかし、その後しばらく経っても、二、三匹が五、六匹になるという程度の変化しかないし、魚たちの動きも地味なのですぐに飽きてしまう。飽きるとまた心細さがやってくる。戸を開けて外を見る。部屋の明かりは縁側までしか届かず、その先の庭は闇だ。隣の家の灯りも点いていない。街灯の光がやけに明るいがその周囲以外は真っ暗で、街灯に照らされたポスターの赤い色がやけに生々しく迫ってくる。闇が壁のように立ちはだかって、外よりがらんとした家のなかの方が広く感じられるくらいだ。誰か一人でも、自分を気遣って病院から帰ってこないものだろうかと思う。ふと見ると、バケツのなかは水がほとんどなくなって、シラス大にまで成長した魚が増殖してみっしりいて、うにょうにょと動いている。しかも、シラス大の魚はまだとんどんカサを増しているようなのだ。頼れる大人は誰もいないのにうかつなことをしてしまったと後悔するが、どうすればよいのかさっぱり分からない。なるべくそちらを見ないようにする。しばらくすると、バケツからシャーッという音が聞こえてきて、炭酸のような泡が湧き上がってきた。これはまずいと思い、バケツを抱えて庭に出ようと駆けだしたのだが既に遅く、膨張した「それ」はパンと音を立てて破裂し、薄暗い部屋中に無数のシラス大の魚が散らばってしまった。片づけようにも、暗いので隅々まできれいにするのは無理だ。炬燵布団の上でうにょうにょ動く魚は蛆虫のようにも見える。途方に暮れてしまう。