●引っ越した。およそ四半世紀ぶりの地元(実家から歩いて十四、五分のところ)。今まで地元に帰る時は、八王子から横浜線で横浜に出るか、時間が合えば橋本から相模線で茅ヶ崎まで行って、あとは東海道線の下りというルート(相模線は本数がとても少ないから、時間が合わないときは大回りでも横浜まで出た方が早い場合がある)だったけど、今日は、町田から小田急線で藤沢まで行って東海道線というルートにした。神奈川県を南北に横断するルートはひたすら平坦で、横浜線も相模線も、そして南北線も、同じ平坦な風景がずっと続くので乗っていても面白くないというか退屈してしまうのだが、小田急線の相模大野から藤沢までの風景はけっこう変化があって退屈しなかった。
●父の知り合いで商売をしていた人が商売を止めるので、その倉庫として使っていた広めのところを格安に借りることが出来た。その人が商売で使っていた立派な机を残してくれた。机というより作業台か。衣料品を扱う商売だったようだから、上で布などを裁断したのかもしれない。がっしりし過ぎていて重たくて動かすのが大変だけど、スペースが広くて、長年使いこまれてきた感じもいい。この二十年以上ぼくは机を持っていなかった。学生の時はコタツで代用していたし、最近はコタツさえなく、段ボールを積んだ上にカルトン(画板)をのせて机がわりとしていたので、自分の机がとてもうれしい。今、その机の上でこれを書いている。
●すぐ裏に幼稚園がある。夕方には静かになったが、昼過ぎにはずっと子供たちの声が聞こえていた。子供っていうのはやたら体力がある上にやたらと執拗なんだなと思い知らされたのは、同じ歌の同じフレーズ、その部分ばかりを、延々十五分くらいずっと繰り返し繰り返し(しかも「聞いて聞いて」とばかりの押し出しの強いの大声で)歌っているのが聴こえ続けたから。さすがにそれは、子供の元気な声が聞こえて微笑ましいという風には思えず、頼むからいい加減に別のところに移ってくれと感じた。
●いきなり不安になったのは、まわりにあまりに何もないこと。前のところは住宅街で何もないとはいえ、十数分歩いて駅までいけば大抵のものはあった。しかし地元は、どこまで歩いても何もない。例えば、プリンターを持っていないので、書いたものをプリントアウトするにはネットカフェに行く必要があるのだが、ネットカフェなんてどこにもなさそうなのだ。帰省するだけならともかく、住むとなると、八王子とはいえ東京と、地方の郊外はかなり違うあと実感する。
●だけど明日もまた、不要品の整理や掃除のために八王子まで行く。引き払うまでまだ越えるべき不安がいくつかある。けど、とにかく今日は疲れた。
●机とマティス