●昨日の日記で書いた郡司ペギオ幸夫のテキストは乱暴に要約するとすごくシンプルに言える(と、思う)。
●我々は双対図式にとらわれているし、それは不可避である。だが、双対図式を実在のものと考えたり、あるいは、双対図式をより良いものへと進化させようと考えることは間違っている。それは生きるための杖のようなものであり、必要に応じて保守・点検しながら使うものである。
●双対図式には定義上のものとフィクションの二つがあり、現実に作動しているのはフィクションのものである。≪(…)双対図式は結果的に排他的で、一方に依拠するだけで十分で、二つの成分を同時に立てる意味がない。しかしそれは、純粋な形式としての双対性の、定義上の要請である。本来、双対図式は、実在する真理ではなく、フィクションである。だから、二つの成分の排他性もまたフィクションで、二つの成分は相見えることが、可能である。純粋な双対図式ではない現実は、二つの成分を対峙させ、交流させる。≫
●この時、双対図式内での対称的な対立が、必然的に、「図式そのもの」と、「それを成立させているその外にあるもの」という、非対称的な対立へとずれ込んでゆく。Aという図式内のBとCとの対立が、図式Aと外部Dとの対立の代理戦争となる。
●ところで、図式AのなかのBとCという二つの価値基準の対立(双対図式)は、排他的であるため、例えば図式Aのなかの総合ポイントが5であるとすれば、Bが4ポイント取ればCは1ポイントであり、Cが1ポイント取り返して2ポイントになるとBは1ポイント減って3ポイントになる。この対立を、それぞれの価値を実現するという目的をもつ時間のなかで考える。価値基準Bが3ポイントから4ポイントへ成長したとすると、価値基準Cは2ポイントから1ポイントへ減少する。なので今度は価値基準Cの方ががんばって1→2と発展すると、自動的にBは4→3と変換される。この時、図式A内に、B3→B4→C1→C2→B3→B4→C1という風な変換が行われつづけることで時間が流れる。だがこれは、価値基準Bからみると3、4、3、4、3、4が延々つづき、Cから見ると、2、1、2、1、2、1と延々つづく、という同一の反復があるだけとなる。この循環が時間の停止のモデルであり、反復が存在−実在−同一性のモデルであり、これらのものが不動点としての永劫回帰をかたちづくる。このBとCの関係が相互作用の個物軸であるとされる。
●そこで、図式Aの他にもう一つ、別の組成をもつ双対図式Dを考える。図式Aのなかに囚われる者は、そこで自らのゲームをつづけつつ、同時に図式Dの方にも目を配る。この図式Aと図式Dの関係が、個物軸(B−C)に対する普遍軸とされる。とはいえこの時、図式Aが図式Dによって相対化されるのでもなく、AにもDにも属さない超越的な視点Xが想定されるのでもなく、あくまでAに内在しつつDに目配せし言及するという形であることが強調される。
ここで価値基準Cがレベル2(2ポイントでも同じだけど)の時、図式A内では5−2=3という変換が起き、価値基準Bのレベル3への変化が起きる。しかしこの時、基準Cのレベル2が、別の図式Dを採用する別の双対空間に送り込まれ(言及され)、そこでは(その図式内の規則に従って)基準Bのレベル0.5への変換が行われ、さらにこの空間の規則によって二倍されてレベル1となって図式Aに戻ってくるとする。すると図式Aへと戻ってきた基準Bのレベル1は基準Cのレベル4へと変換される。この時、1、2、1、2、の反復でしかなかった基準Cの流れに、1、2、4、という別の流れが出現(生成)することになる。これによって(反復−点へと収束するものではない)時間−変化(面へと散逸するもの)が生じ、これをもって存在−生成のモデルとされる。≪反復単位=不動点は、散逸され、点ではない面が出現する。それをここで私は、内在平面と呼ぶ。≫
●えっ、そんな簡単なことなの、と拍子抜けする感じなのだけど、ここで、図式Aに内在する項であるBとCとの相互作用と、図式Aと図式Dとの相互作用という、レベルの異なる二つの相互作用が相互作用することによって、不動点としての永遠回帰だったものが内在平面としての永遠回帰となり、人間は(原理的には、こんなに簡単に)超人となる。ここには、全体も超越も外部も相対(メタ)化も想定されることなく、ただ、ある双対図式への内在と、別の双対図式への通路(相互作用)があるだけだということになる。
●これはこのテキストに書かれたもっともシンプルなモデルで、この後、もっと複雑で面白いモデル(ロボットの目、非同期的なセルオートマトン、群れ)が出てくるのだけど、とりあえず最低限のことはこのモデルが語っていると思う。複数の双対図式の並立(束)と、時間の非同期化があれば、人間は超人になれる(かもしない)、と。このような過程(図式の並立、時間の非同期化)が脱構築と呼ばれる。