●結局最初から全部書き直すことになった小説のつづきを書いているのだけど、『ギッちょん』(山下澄人)を読んだら(まだ表題作しか読んでないけど)、その「動き」の自在さにあーっと思って、つづきがぱったり書けなくなってしまった。このまま放置しておくと、このままずるずると書けないままということもあり得ると思って、今日は無理やりにでも少しは何か書くぞと決めて、うんうんうなってなんとか少し絞り出した。
下は今日書いた分の一部。
≪さっき階段で彼とすれ違った猫はこちらの世界の姿は猫だが、むこう側では獣たちのうちの一頭だったこともある。アパートの階段を下りながら猫はもう少しでそれを思い出しそうになってやや速度を緩める。猫はその兆候を自分の身体サイズへ違和感として感じた。カンカンカンという軽い音を立ててリズミカルに下る動きがどこかそぐわないような気がした。軽々と階段を下りながら、その行為と世界との噛み合い方が間違っているように思われた。気をつけろ、それでいいのか、調子にのって続けると足元をすくわれるぞ、と、どこかで誰かに忠告されているのではないか。だがそれは一瞬の躊躇であり、ほんの二歩ばかりの脚の動きの速度を緩ませただけだ。思い出すところまでいかないのだ。何事もなかったかのように階段を下り切り、猫は飼い主の元に戻る。そして、猫が飼い主のベッドの足もとで丸まり眠りにつくために瞼を閉じたその時、わたしの部屋の壁に接している獣の目が開くのだ。≫