●最近テレビドラマをDVDでいろいろ観ている勢いで『スペック』(2010年TBS系列)を六話まで観た。脚本も演出も「安いなあ」いう気がどうしてもしてしまうのだけど、ただ、戸田恵梨香加瀬亮はすばらしいんじゃないかと思った。この感じを引き出したのが、この脚本と演出なのだとすれば、それを一概に「安い」と言って済ませられないのかもしれい(キャスティングも演出なわけだし)。
基本、『ケイゾク』のつづきみたいな話なのだけど、『ケイゾク』の中谷美紀がキャラとしてぴったりはまっている感じなのに比べて、『スペック』の戸田恵梨香はどこかはまりきっていない不定形なところがあって、安い紋切り型の要素の寄せ集めでできている(半ば意図的に「安い」つくりになっているわけだけど)このドラマに、解決しきれない不思議な「隙間」の感じをつくっていると思った。中谷美紀の場合、どうやっても「すごい美人」ということでキャラの輪郭がきっかり決まってしまうのだけど(それが悪いわけではないけど)、このドラマの戸田恵梨香は、これ以上やってしまうとたんに「小汚い」感じになってしまうぎりぎり手前のところまで「汚れ」をやっていて(でも、ぎりぎり留まっている感じ)、それによって、キャラとしてどっちに転ぶのか決定不能なきわきわの絶妙なラインを維持していて(これはかなり大変なことなのではないか)、この独自のキャラの中性的性質は他にあまりないんじゃないだろうか。今まで、戸田恵梨香という名前を全く知らないわけではないけどぼんやりとしか認識していなかった(北川景子と区別がついてなかった)けど、これはなかなかすばらしいんじゃないかと思った。
加瀬亮も、このキャラにぴったりとはまっている感じではない。単純に戸田恵梨香とのツーショットの絵的なバランスを考えても、もうちょっと背が高くてからだががっしりしている人の方がバランスがとれると思う(まあ、そっちの役割は城田優が担っているのだけど)。でも、二人のツーショットのバランスの悪さが、この紋切り型のドラマのなかで紋切り型へと解決しない方向へと何かを開いているように思う。元特殊捜査班だった人物という役割を担うキャラとしては、どうしたって線が細すぎるのだけど、むしろその不安定感こそが面白い。
物語を語るという側面からすると、こういう話はアニメの方がずっと上手く出来ると思うし、実際にもっと高度な作品の例が多数あると思うけど、戸田恵梨香加瀬亮によって生み出されるようなキャラによって開かれるある種の不定形なひろがりは、おそらくアニメだと難しい。アニメだと、どうしてもキャラは紋切り型の「型」の集合という形になるだろう。だとすれば、このような(半ば意図的な)「安い」つくり(脚本、演出)も、テレビドラマの戦略としてはありなのかもしれない。