●『ヘリコプターマネー』(井上智洋)を読んだ。
井上さんとはじめてお会いしたのは五年くらい前、西川アサキさんとのトークイベントの打ち上げの時で、とても印象に残っているのだけど、西川さんは井上さんのことを「この人は世界を救う理論を持っている人だ」と言って紹介した。その後、信用創造の権利を銀行から剥奪して貨幣発行益をベーシックインカムとして国民に配当する、という論文を読んで、なるほど、このことかと思った。
でも、この前に出た「 人工知能と経済の未来」にはこの話がまったく出てきてなくて、あの話は何か問題があって引っ込めてしまったのだろうかと疑問に思っていたのだけど、『ヘリコプターマネー』では、まさにそのことが、前に読んだ論文よりももっと広範囲な根拠を示すことで増強された形で提示されていた。入門書的に描かれているけど、これはガチな本ではないか(AIとBIに加えてCIが登場する)。
(あるいはこの話はあまりに危険だから---銀行の利権関係者から暗殺されかねない---大々的に出すことに慎重になっているのか、とも思っていたけど、けっこう無防備に出してきた。)
井上さんの話は、マクロ経済学の知識のない人(ぼくもないですが)には、まったく常識外れでリアリティがないように聞こえるかもしれないけど、『ヘリコプターマネー』は、かなり分かりやすく、そして論理的に描かれているので、ロジックをきちんと追って読めば、そんなに突飛な話ではないと感じるはずだと思う。というか、世界の見方が革命的に変わると思う。
(「信用創造とは何か」という初歩的なことから説明されているので、この本を読むのに必要なのは、知識ではなく、論理をきちんと追ってゆく姿勢だと思う。)
勿論、理論があるだけでは何も変わらない。マクロ経済学は、国家規模の経済制御に関する理論だから、それを知っても個人にできることはない(選挙時の投票に多少影響したりはする)。ぼくは、今の日本を不幸にしているのは様々な「常識」だと感じていて、常識の根深さにかなりうんざりしているのだけど、しかし(これは、良くも悪くも、だけど)頑丈そうに見えた「常識」も、何かきっかけがあるとあっさり捨て去られてしまうこともある(トランプが大統領になってしまったりするのだから、負ではない方向で、そういうことが起こらないとは言えない)。こういう本が多くの人に読まれることが、常識が変わることの下地をつくる可能性もあると思う。
井上さんは、専門家たちとの議論を通じて理論を検証したり深めたりする一方、政治家とか官僚とかと具体的な接触をもったりするのだろうけど(ぼくには想像もつかない世界だけど)、くれぐれも、利権関係者から殺されたり、妙な不祥事を捏造されて追放されたりすることのないよう気を付けて、「世界を救う理論」を現実のものとするために活躍されることを期待しています。
《無からお金を作り出すという意味では、政府が紙幣を発行しようが銀行が信用創造しようが同じである。それなのに、政府が自らお金を作り出す権限を放棄しているがために、わざわざ銀行から借金をしなければならず、これまでに膨大な利子を支払ってきたのである。
こんなバカバカしい話があるだろうか。銀行への利払いは国民の増税によってまかなわれるわけだが、銀行をタダで儲けさせるために、なにゆえ国民がそんな負担を強いられなければならないのだろうか。》
《貨幣発行益のすべてを国民に還元するには、民間銀行による信用創造を廃止しなければならない。ダグラスはまさに民間銀行の信用創造を廃止し、貨幣発行益のすべてを国民に配当するように提言している。》