●「現代思想」のブロックチェーンビットコイン特集の西川さんの論考を読んでいたら、最初のところにさりげなく『ガンダムUC』のマリーダさんの台詞からの引用があって、おおっ、と思った。この台詞、昨日聞いたばかりだ、と。《そんなものがなくても生きていける。そう言い切れる人がいるとしたら、余程の幸せ者か、世間に関わっていないかどちらかだ。》
●まだ読んでいる途中だけど、この論考は『魂のレイヤー』でルーマンなどを用いて「ガタリの夢」として語られていたテーマの展開というか、そのより具体的な可能性としてブロックチェーンが検討されているのではないかと思った。少し前には哲学的(比喩的)にしか語れなかった事柄を、この論考では具体例として検討できるようになったわけだから、世界は変化しているし、それはテクノロジーの進歩によってもたらされていると言えるのではないか。
以下、「中枢の解体可能性と分散組織デザイン」(西川アサキ)から。
《そもそも階層構造を持つ組織が出現する理由の一つは、組織の大規模化に伴う、創業者・経営者の認知限界による無能化(議題が多すぎて処理できない)を防ぐことでもある。よって認知限界のないメンバーに階層構造は必要ないかもしれない。実際、ビットコインは、「すべての取引を記録している分散型台帳とその確認」という人間の認知能力では不可能な処理を、組織メンバー=ノードが計算機なら実現できる、という事実によって発明された分散組織ともいえる。》
《たとえば脳はかなり階層化されたパターン認識・抽象化用組織に、寡頭制的な意思決定機構が載っているハイブリッド組織構造を持つとみなすこともできる。自然がなぜフラットな組織を採用しなかったのか? 細胞の持つ物理特性の限界にすぎないのなら、他の設計方法がより優れていることもありうる。たとえば粒度=抽象化をコントロールできる要約プログラムがあればかなり認知限界を拡大できるし、そもそもブロックチェーン自体、神経や紙とシリコンの物理特性が違うことの表現にもみえる。ただし、固定された抽象化の階層的積み上げが、なんらかの機能にどうしても必要である可能性も捨てきれない。その場合、分散組織は階層組織を認知的に上回るという推測1は成立しない。》
《(…)ノードに専門性やチーム分割が存在する場合、それによって生じた情報の分断を何かが埋める必要がある。これは経営者という一人または少数の人間(内部で情報が強くリンクしている中枢ノード)を削除してしまった代償でもある。階層組織では上位ノードが抽象化された情報を収集しその機能を果たす。が、効率的ではない場合があるから、組織構造に関する分散組織の優位性はこの機能をうまく補填しうるプロトコルを作ることに依存する。》
●あえて読んでいる途中の早計な判断(早とちり的な直観)で書くと、ここで検討されていることは究極的には「官僚(組織)なしで国家をまわすことは可能か」という問いに繋がるのではないか(国家は最強の階層構造だろう)。この問いはある意味で新自由主義と同様の方向を向いている。新自由主義の唱える「小さな政府」は、官僚は必ず腐るから官僚に出来る限り権限を与えるなという、共産主義的な「官僚主義」の批判であろうから。階層上位にある中枢(中央銀行や官僚や権威や資本家や経営者)によって価値が保証されるのではない、相互評価の分厚い連なりによって価値が保証されることが目指される世界は、「平等な能力主義経済」の世界なのではないか(格差がない、ではなく、搾取がない世界)。ただ、弱肉強食にならない新自由主義として、個々の人々の「苦痛」や「幸福」がそのパラメータに含まれることになる。
しかしここで「能力主義」は個に対しての能力主義ではなく、ある有効な集合知を生みだすための集合的な能力主義だと思われる。有効な集合知を創出することが可能なシステム(集団)が自己生成するようになるために必要なプロトコルとは何か、と。
個の能力主義ではなく、集合的な能力主義であることによって、こんどはそれは共産主義に近づく。だからここで裏返って、官僚主義全体主義抜きの共産主義は可能か、という問いに近づく、のではないか。
●ただ、この前に話した時に西川さんは、ビットコインは軍事力を持たないから、軍隊をもっている「国家」に禁止された場合、それに抵抗できない、と言っていた。国家が、軍隊や警察として「暴力」を集中管理(中枢化)することで人々の安全保障(や法を実行させること)を行っているという側面は、国家というもののすごく大きな意味としてある。
ブロックチェーンによって「暴力」を分散組織化するということ---それが具体的にどういうことなのかイメージが浮かばないが---が可能でないのならば国家への対抗軸にはなれないということになる。でも、現時点で可能でなくても、将来にわたって可能でないとは言い切れない。科学やテクノロジーが何を可能にするのかは、前もっては分からないから。