●『笑い虫』(堀禎一)、観た。自転車の走行でいきなりはじまり、一時間でスパッとおわってしまう、この感じ。しかし、後に残る濃厚な悲劇の気配の重さと、ねっとりと持続する長回し。それらをすっぱりと断ち切るような葉月蛍のアルカイックで鋭角的な顔のクローズアップ。乾いていて明瞭な葉月蛍の声と台詞回しと、対照的な牛嶋みさをの湿ってくぐもった声と台詞回し(丁寧語)。何度も頭の同じ場所を怪我する子供。黒い背景から浮かび上がる形象。
AVの撮影現場とプロレスの試合が、しけたものではあってもそれなりに安定はしている日常から男を離脱させ、取り返しのつかない闇の領域へと踏み込ませてしまう。もはやカタストロフィは避けられないのかと思いきや、闇への逸脱は、風呂とカレーライスと女(妻)のフェラによって急速に日常へと回収される。そこに子供が加わり、日常がさらに強化されたところで映画は終わる。しかし、踏み込んでしまったと思われた闇こそが一瞬の悪い夢(逸脱)であったのか、回収されたかのように思われた日常こそが束の間の夢(幻)でしかないのかは、判然としない。すばらしい。