●必要があって、また三好銀『海辺へ行く道』シリーズを読み返しているのだけど、改めてすごく好きだなあ、と。やや不器用な描線で、抽象的で、乾いていて、硬質な世界を描きながらも、性的な猥雑さや、心の奥のブラックな部分、あるいは怖いくらいの執拗さなども、チラチラと出してくる。しかしその、性的生々しさやブラックな感触、粘着的な執拗さまでもが、どこか浮世離れしていて抽象的で、湿ったところがないという、他にはちょっとない感じ。
そして、人工性や模造性(識別不能性や入れ替わり)への強いこだわり、空間への独自の感覚、迷宮性、トポロジー的な歪み、複数の空間が非意味的、非距離的に短絡して繋がってしまう感じ。人と人、人と物、人と猫との間の、距離や関係性もまた、そのような空間と同様に、距離が遠いところに、誰にも分からないような秘密の短絡的関係が密かに開かれ、結ばれているという感じ。
そして、常にどこかがずれているようなユーモア。
九十年代初頭のデビュー当時の作品から、ゼロ年代終わりに復活した後の作品まで、時代的、風俗的な背景の部分は変化していても、淡々と変わらないこの感じ。
三好銀は、昨年、61歳で亡くなってしまったのだけど、寡作でもいいので、少しずつでも、長く作品を描きつづけて欲しかった。とはいえ、一度は忘れられた漫画家であった三好銀が、2010年前後に復帰して、亡くなるまでの間、新作を四冊、古い作品の再編集を一冊出版してくれたということは本当に大きなことで、これを実現した編集者は本当に偉いと思うし、強く感謝したい。