●夢のなかで余命いくばくもないと診断をされ、自分に残された時間が少ししかないのに、毎日学校に通っているなどまったく無意味で無駄な時間だと思い、まず、すぐさま高校を辞めようと思うのだけど、考えてみれば、というか、考えてみるまでもなく、高校などもう三十年も前に卒業しているではないかと気づき、一体なぜ、自分は今でも高校に通っているなどと勘違いをしていたのかと、自分に呆れるのだった。
東京国立近代美術館の前を通りかかったので、前に熊谷守一展を観に来た時に買いたいと思って買い逃していたポストカードを買おうと思ってミュージアムショップに入るのだけど、僕が欲しいと思っていた絵が印刷されたものは既に売り切れで、仕方なく何も買わずにショップの外に出ると、今まで何度も来ていたのに気が付かなかった地下庭園へおりていく階段があることに気づき(実際にはそんなものはないです)、階段を下っていくと、四角く区切られ、上方は外に向かって開いているその地下空間にだけ、まだ多量の雪が残っていて、シャーベット状になっているとはいえ地面を完全に埋め尽くすほどに厚く積もり、真っ白な空間が広がっていて、多くの人がそれを感嘆とともに眺めていた。子供ははしゃいで雪の上を走り回り、若者たちのグループは、こんなに寒いにもかかわらず、地下庭園の中央にある、海のように波立つほどに深くて広い池のなかで水浸しになってまで興奮してはしゃいでいるのだった。
しばらくそれを眺めているのだが、すぐに寒さを感じて戻ろうと思う。
地下にあるこの場所まで、何の苦も無く階段を下ってきたというのに、いざ昇ろうとすると、階段の一段が高すぎて、ようやく上の段に足をかけることができても、そこから這い上がるだけの体力がなく、たった一つ上の段へと昇り切ることすらも出来ず、その前に疲れ果て、力尽きてしまう。何度か試みるのだが、昇れそうな気がまったくしない。自分はもう、こんなにも体力がなくなってしまったのかと途方に暮れていると、階段の隅の方が車いす用のスロープになっていることに気づき、そこからなら、なだらかな坂になっているから昇れるだろうと思った。しかし、そのスロープの脇には警備員が立っていて、その上、鉄でできた頑丈な門があって閉じられている。警備員は、ここは要人専用なのであなたをお通しするわけにはいきませんと言って、通してくれないのだ。ぼくはもうそれ以上説得を試みる体力も気力もなく、ただ疲れ果てて、多くの人々がはしゃぎまわる声を聞きながら、まったく戻れそうな気がしない上方を見上げ、空を眺めることしかできなかった、という夢を見た。