2020-07-23

●『美味しんぼ』(森﨑東)。ここで森﨑東は、原作や製作陣を尊重して、抑制的に演出に専念したという感じだろうか。(『喜劇 特出しヒモ天国』のような圧倒的な猥雑さや『街の灯』のような難解さはないが)原作モノの映画化という意味で、とても見事な作品だと思った。

前半は、原作のフォーマットに従った、メディア上での派手な「料理対決」でみせていき、後半になって、家族の記憶にもとずく、よりプライベートな場での地味な「料理対決」が主軸になる(煮豆)。この、前半から後半への転換のキーとなるのが、(おそらく原作には登場しないと思われる) 遠山景織子だ。彼女は、佐藤浩市と兄妹同前に育てられたが、実は孤児である。三國連太郎佐藤浩市の父子の対立(確執)が、出版社が主催する新聞社対抗の対決という形であらわれる前半から、三國連太郎からも佐藤浩市からも、等しく親しい位置にある(どちらに対しても再帰的家族である)遠山景織子を媒介とした対決へと移行し、結果として、その移行によって父と子の和解が成立するという展開が、この映画に森﨑東がつけた徴だろうか。

(ただ、羽田美智子のキャラを魅力的にみせるシーンが一つでもあれば、と思った。)