2020-12-06

●結局、それは起らなかったことなのだが、「新人小説月評」の依頼を受けた時、一つ思ったのが、これできっと古市憲寿の小説を読むことになるのだろうということだった。ぼくはそれまで古市憲寿の小説を読んだことがなかったし、おそらくこれからも自らすすんで読もうと思うことはないだろう。しかし、一年間、文芸誌に掲載される新人の小説をすべて読むということは、そこに当然(芥川賞作家になることを狙って積極的に小説を発表しているようにみえた) 古市憲寿の作品も含まれるだろうと思ったのだった。そして、こんな機会がなければ決して読むことのないであろう(いろいろと言われているその評判だけがなんとなく聞こえてきている)、その小説が、実際には一体どのようなもので、それを自分がどのように読み、どのように感じることになるのだろうということに、少しだけ興味が沸いたのだった。

しかし結局、この一年の間に古市憲寿の小説が文芸誌に掲載されることはなかった(本は出たらしいが)。一方では、古市憲寿の小説にかんして何かしらのコメントをしなくて済んだことに少しほっとしてもいるのだけど、もう一方で、これでほぼ永遠に古市憲寿の小説を読む機会を失ってしまったであろうということについて、少しだけ残念にも思うのだった。