2021-01-01

YouTubeにアップされているのを発見したので『御先祖様万々歳!』(押井守)を観ていた。89年から90年にかけて発売されたOVA。面白かった。家父長制的な家族が、一見、家父長制的な価値観に従順であるようにみえる少女によって破壊されていく話でもあり、男オタクにとって女(美少女キャラ)とは何か、という話でもある。

(反転された「うる星やつら」であり、自ら手がけた「うる星やつら」批判にもみえる。)

典型的な「空から美少女が降ってくる」パターンの話といえる。タイムマシン(飛行船)で未来から来た子孫だと名乗る美少女が、父母、息子という三人家族の前にとつぜんあらわれる。彼女には、男性に従順であるという以外にこれといった特徴はもたされていない。彼女は、父にとって理想の娘であり、息子=少年にとっては理想の性的対象であり、母にとっては、家庭内での自分の位置を脅かす敵対者である。少女によって、これまで互いに無関心のままなんとなくつづいていた家族内に、はっきりとした敵対関係がもたらされる。

母は家から去り、少女を保護したい父と、少女に手を出したい息子という敵対関係をもった者たちが残され、男たちの潜在的闘争状態のなかで、三人による、絵に描いたような「家族」関係が演じられる。息子は、彼女に対して下心をもつのだが、彼女は「未来から来た息子の孫」であると自称しているため、インセストタブーにより手を出すことが禁じられている。

(敵対者であった母が後に、少女を、ひ孫でも娘でもなく、息子の彼女=妻として受け入れるというところも面白い。しかし、そういう受け入れ方を、父は受け入れられない。そして父は、少女=理想の娘の出現により、より強く「家長」であろうと無理をして自滅する。)

「未来から来た」などという荒唐無稽な設定(自己申告)を無視すれば、息子は彼女に手を出すことができるのだが、そもそも彼女と息子との関係は荒唐無稽な設定(祖父と孫である)によっているので、これを否定すると彼女との関係そのものがなくなってしまう。彼女が息子と同居し、共に行動し、彼に従順であることには、彼が彼女の祖父であるという理由しかない。息子は、彼女を連れて家を飛び出すのだが、「家族」という制度を否定すれば彼女と共にいることができなくなる。

話は、第三者の介入による家族の離散から、再-集結へとすすんでいくのだが、二度目の再帰的家族関係もまた、破綻から逃れられない。そして、少女を忘れられない息子は…。

五話で一応きれいに終わっているのに(ただ、ここで終わってしまうと「輪廻の蛇」を匂わせるオチ、ということになってしまうのだが)、冗長で退屈で、余計な一手とも言える第六話をつけくわえないと気が済まないところが、押井守という作家の欠点であり、そして特異性でもあるのだな、と思った。

六話のラストを観ることで、ああ、これは男オタクにとって美少女キャラとは何か、という話でもあるのだなあと思う。「攻殻機動隊」で、バトーにとっての草薙素子も、こんな感じだった(男は、好きな女に手を出すことを禁じられており---そもそも女は「自分のもの」と言える身体を持っていない---そして、男を「こちら側」に残したままで、女は「向こう側」へ去ってしまう)。