2021-11-28

●U-NEXTで『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』。つづけて二回観たのだが、展開が分かった後で二回目を観ると、この作品の演出がいかに細かいところまで精密に作り込まれているのかが分かる。当たり前と言えば当たり前だが、ぼんやり観ていると見逃してしまうようななんということもない短いカットでも、多くの意味・役割り・機能・効果が担われている。

今回の物語は、新入生をめぐる小波乱といった小さな話だ。黄前が、一見似ていないように見えるが、実はそこに過去の自分が見出されるかような後輩に、翻弄されながらも、その後輩を(あたかも過去の自分を導くかのように)導いていくという話だと言える。そして、人は一年でこんなにも成長し得るのだということを、驚嘆とともに味わうことになる(それは、分かりやすい成長物語ではない、とても複雑な機微を孕んだものだ)。冒頭に、塚本による黄前への告白シーンが置かれ、恋愛ストーリーがはじまるのかと思いきや、二人の恋愛関係はあくまで背景に後退し、前景にあるのは(主に女性たちの)微妙な人間関係の推移だ。

この、主に女性たちによる微妙な人間関係の推移を描くことにおいて、おそらく原作の武田綾乃は天才の域にあり、ぼくなどでは千年生きたとしてもこんな話はつくれないと思う。「ユーフォニアム」をシリーズ通して観ていると、こういう環境(人間関係)に置かれれば、それは当然のように人として成長するだろうということであり、このような人間関係など想像することすら出来ない自分が、いい年をして(人間関係の機微という点で)まったく成長がみられないというのも、それは当然だろうということでもある。人の感情の細かい機微を避けるような傾向のあるぼくなどは、このようにして上手な作品にしてくれてはじめて、(現実上の欠落の代補のように)この世界にこのような関係があり、このような感情の震えや交換があるのだということを知ることが出来る。

(「嫌な奴」や「悪者」がまったく出てこないという意味では、現実的ではないのだが。)

また、小品とも言えるこの作品の高い密度は、この作品が過去に、第一期、第二期とあわせて(13話×2)26話を費やされて語られた物語があり、その記憶の上にのっていることによって可能になる。今の時点で、過去に語られた物語を詳細に憶えているわけでは決してないが(というか、かなり忘れているとさえ言えるが)、冒頭近くで、部室にいる黄前がふいに「田中先輩から託されたユーフォニアムの曲」を吹き始める場面で、まさに身構える余裕も無く不意を突かれたかたちとなり、過去にこの作品シリーズによって経験した感情の塊が一挙にあふれ出てきて動揺してしまった。またそれにより、自分が過去のこのシリーズにどれだけ傾倒していたかということを思い出した。