2022/11/02

●「ドンブラザーズ」、17話まで観た。11話から17話までの7話分で、あまりにも色々なことが起こっていて理解が追いつかない。細部で所々、薄さと紋切り型が気になるところがないわけではないが、怒涛の展開がそれを補って余りある。単に出来事がたくさん重ねられるというだけでなく、基礎になるような設定そのものが流動的にどんどん動いていく。戦隊ヒーロー側から怪物(ヒトツ鬼)が発生するというのはある程度予想通りだが、リーダーが敵(脳人)にあっさりとやられてしまうとか、代わりに6人目の新メンバーが現れるとか、新メンバーがあまりにもヤバ奴だとか、設定にしても、今まで消去されていたと思っていた人たちは、実は「別次元で眠っている」とか、ヒーロー、脳人、怪物(ヒトツ鬼)の他に、第四の勢力として獣人(ジュート)という概念が出てきて、この獣人こそが本格的に危険な存在(「まど☆マギ」で言えばワルプルギスの夜みたいな?)らしいとか。

一方で、一つのネタを「行き違い」を多用して延々と引っ張るということをしていて(『初恋の悪魔』と同様に、一人の女性に二つの人格・記憶があって、そのそれぞれを戦隊の二人のメンバーが愛してしまっているがそれを互いに気づいていない)、もう一方で、次から次へと予想もつかない新しい展開を突っ込んでくるというのが、同時になされている。

●この作品では、人はあまりに簡単に怪物(ヒトツ鬼)化する。人を怪物化させる欲望のあり方についても、そんなに深くは掘り下げられない。誰もが怪物になり得るし、逆に言えば怪物になってしまうことはそこまで深い罪ということはない。ちょっとした厄介で迷惑な人になってしまう、くらいの感覚だ(欲望の深さというより、ちょっとした「思い」の硬直化くらいの感じ)。そして、脳人によって対処されると消去させられてしまうが、ヒーローによって対処されれば簡単に「人」に戻ることができる。戦隊のメンバーの一人が怪物化してしまうが、あっさりと処理され、戦隊に戻ってきて「ごめんなさい」で済んでしまう(逆に言えば、根本的解決ではなく対処療法なので、再-怪物化の根が消えたわけではない)。つまりこの作品では「悪」は小さくて軽く、世界征服を企む悪の組織のようには組織化されておらず、戦隊ヒーローは迷惑処理係くらいの感じだ(ヒーローが真に戦っている相手は、怪物ではなく脳人だ)。この「悪の軽さ」は重要で、つまりこの作品では「悪を倒す」ことが主題になってはいない。

(ヒーローの主な目的は、「市民を怪物から守る」というよりも、「怪物化した人々を脳人から守る」ということの方だ。ただ、彼らがやっていることは「怪物=人が能人によって消されないようにする」ことでしかなくて、「怪物化の根本原因を解決する」ことではない。怪物化は自然現象のようなものであり、そこはどうすることもできないという感じ。)

●戦隊ヒーローのリーダーであるタロウは嘘がつけないという設定で、無理して嘘をつこうとすると短い時間だが本当に死んでしまう(本当に死ぬ、というのが面白い)。ここで彼は、ただ嘘をつけないだけでなく、何か質問されたら、それに答えないことができない。「嘘はつかないが、何も言わない」ということもできない。だから、敵(ソノイ)から「お前の弱点は?」と問われて、正直に答え、やられてしまう。

それに対して、脳人のリーダー(ソノイ)は、なぜ敵である自分を助けたのかというタロウの問いに、「答えたくない」と答える。そしてこの「答えたくない」という答えをタロウは「良い答え」だとする。つまり、「答えたくない」という答えは、嘘をついているわけではない(本心から、答えたくないと思っている)し、質問に答えていないわけでもない(「自分はこの質問には答えたくないという気持ちを持っている」という答えを返している)。

だが、おそらくタロウには、この「答えたくない」という答えを使うことはできないだろう。自分の心が答えを知っている場合、「答えたくないと思うこと」がそもそも彼にはできないのだと考えられる。タロウは「答えたくない」という心理状態を知らない。しかし、ソノイとの対話によって、「答えたくない」という心理状態が存在することを知る。タロウにとってこれが「良い答え」であるのは、この対話によって彼にとって未知だった新たな概念(知っているが答えたくない)を得ることができたからだろう。タロウには「答えたくない」という心理状態を経験することはできないが、そのような状態があることを想像することができるので、「答えたくない」という答えを「誠実な対応」として受け入れる(肯定する)ことはできる。

敵対する関係でありながら、とても似ているところのある二人の、しかしそこにある決定的な差異が、単なる共感を超えた対話を生んでいる。