2024-11-25

⚫︎『マルサの女』を観た。1987年の映画。この映画を、かつて観たことがあったのかなかったかも忘れてしまった。1987年の山崎努が今の自分より年下であることに驚く。

大ヒットした映画だけあってさすがに面白かった。若い時は伊丹十三の映画が苦手だったが、あまり違和感なく受け入れられた。伊丹十三の「シネフィル的なこだわり」は、アート系の作品よりもエンタメ系の作品でこそ十分に生かされるのだなあと思った。そういう意味で、アーティストというより才人なのだな、と。この映画はかなり良いと思う。

(クセの強い俳優を集めた「顔芸」的な感覚は、案外『アウトレイジ』とかに影響を与えているんじゃないかとも思った。北野武とは「顔の趣味」がけっこう違うけど。)

バブルの絶頂期に、国税局の査察官の話をやろうとするアイデアも面白いし、そのアイデアの持つポテンシャルが十分に展開されている(ためらうことなくエンタメ方向に振り切った)脚本も優れているし、エンタメなんだけど(エンタメとしては必ずしも必要ないのだけど)、エンタメ要素の邪魔にならないよう、無茶苦茶に凝った撮り方がなされて画面が異様に充実しているという「捩れ」があることも味わい深い。

「無駄な画面の充実」が、実は物語要素を背後で支える説得力にもなっているのだと思う。エンタメ的にお話が面白いだけでなく、一つ一つのカットにちゃんと多くのアイデアが込められていることが滲み出ている。ぼくは、山崎努という俳優がちょっと苦手なのだが(青山真治『こおろぎ』とか、うーん、となってしまう)、この映画では素晴らしい。エンタメ作品において悪役に厚みがあることがいかに重要か、と思う。宮本信子が演じる「板倉亮子」というキャラクターも、かなりすごい発明だと思った。

(物語的に重要な要素なのに、山崎努と息子との関係の描き方がやや弱いかなあとは思う。あと、今の感覚でみると、ラブホテルの経営者がそんなに儲かるはずないのでは、と思ってしまうが。芦田伸介による「これからのヤクザは(敵方の親分のタマを取る、とかではなく)脱税で刑務所に入るんだ」といういかにもバブリーなセリフが秀逸。)

⚫︎『マルサの女をマルサする』によると、撮影期間が45日くらいで予算が2億円くらい。バブル時代の日本映画としては低予算の作品ということになるだろう。37年前の作品なのでさすがに感覚的に古いところはあるとしても、今観ても、潤沢な予算で作られるNetflixドラマとかより面白いと思う。

(それにしても、80年代の日本映画は画面が贅沢だなあとは思う。予算の問題だけでなく撮影所の技術がぎりぎり残っていた時代ということもあるのだろう。)