2025-02-22

⚫︎U-NEXTで、『WALK UP』(ホン・サンス)。タイトル、そのまんまの映画だった。

いつものホン・サンスといえばそうなのだが、しかしホン・サンスの映画がこんなにオシャレでいいのか、とは思った。初期ジム・ジャームッシュかと思うほどにモノクロの撮影が美しく、しかも、いつのも唐突な謎ズームが一度もなくて一貫してスタイリッシュ。いつものおやじ的下品さも抑えめで、(四部構成の)四幕目の場面で、女性から「あなたは歳の割にはアレの回数が多い」と言われた映画監督(男性)が機嫌良くなり「そうか、多いか、ガハハハ」みたいになって高麗人参モグモグするところ以外は、下品成分も最小限に抑制されていた。さらには、主役はいつものモテモテ映画監督で、いつも通りに嘘つきで嫌な奴なのだが、その嫌な奴度合いも、いつもに比べるとかなり抑えめだった。結果、ホン・サンス的としか言いようのないホン・サンス映画なのに妙にオシャレ感が強めということになっていた。

小さな、四階建てのビルが舞台で、建物の前の道以外は、舞台がビルの外に出ることはない。明らかに、ホン・サンスがこのビルを気に入ったかなんかして、ビルの空間から発想したという以外に考えられない、それ以上でも以下でもない、謎も意外性もない映画なのだが(ビルの上の階へと段々と「歩いて上って」いく映画だ)、それでも面白く、見入ってしまう。

映画監督の男性とその娘。そして、ビルのオーナーでインテリアデザイナーの女性、ビルの二階で料理店+料理教室をしている女性、不動産屋の女性という、一人の男性と四人の女性の話。一幕目は映画監督が娘をインテリアデザイナーに紹介する。二幕目はインテリアデザイナーが、二階で料理店をやっている女性に映画監督を紹介する。三幕目は、料理店の女性と映画監督が三階の部屋で同棲している(コロナ禍であることが匂わされている)。四幕目は、四階に一人で住む映画監督の部屋に足繁く通う(男女の関係にある)不動産屋の女性と監督がテラスで食事をしている。そしてラストに一幕目にもどる(監督は不動産屋の女性と暮らすため別の物件へ移ろうとしているが、円環が閉じてビルの外には出られない)。一幕目から三幕目までは時系列通りに進むが、三幕目と四幕目は、もしかすると(対比的な)並行世界かもしれない(しかし、時系列通りととってもそんなに矛盾はない)。まあ、いかにもホン・サンスだよね、という構成。

ぼくが好きなのは、最初の3、40分くらいのところ。映画監督はインテリアを学びたいと望む娘を紹介するためにインタリアデザイナーの女性に会いに行くのだが、インタリアデザイナーは娘にはあまり興味がなくて(有名人である)監督とばかり話す。ここで、一人ぽつんと取り残された娘の佇まいが素晴らしいのだ。監督は10年前に妻と別居しており、娘と会うのも5年ぶりくらいだという、まさに、その感じ、そういう距離感で「そこ」に存在していて、別に拗ねたり不貞腐れたりしているというわけでもなく、まあ、こんなもんだよな、という冷めた感じでぽつんとしている、その感じが、ああ、まさにそれ、という感じで、とても素晴らしい。

(娘と、ジュールと呼ばれている一階の料理店のアシスタントのような若い男性が、二人でビルの前でタバコを吸う場面がすごく好きだ。)

さらに、それからしばらくして監督がビルに再び訪れ、インテリアデザイナーが監督と二人でゆっくり話すために二階にある料理店で食事をしようとするのだが、その料理店の店主の女性が監督のファンだということで、料理店の女性と監督が意気投合して、今度はインテリアデザイナーが取り残されぽつんとしてしまう。この、三人関係が入れ替わる流れと描写がなかなか素晴らしく、面白かった。それ以降はいつものホン・サンスという感じだった。

(追記。映画監督は娘に嫌われていると思っていて、娘もまた、当然、外に女を作って出ていった父を好きではない感じだが、それでも娘は、父親のギターに対する強い愛着や、古い自動車を父親がずっと大事にしていること、幼い頃それに乗った記憶があることなどを、ポジティブな感触と共に語ったりもしていて、娘にとって父との距離が、遠さと近さ、嫌悪と好意とが同居している感じに描かれているところに、深さを感じたりもした。)