2026/02/23

⚫︎デリック・メイの「Strings of Life」をオーケストラで演奏している動画があった。こういう行いが「正しい」ことなのかどうかには疑問があるが、さすがに格段に音が豪華になっていて、おおっと思う。

・Derrick May - Strings of Life - Weather Festival Opening

https://www.youtube.com/watch?v=1w72OtqjRro

ただし一方で、この曲はチープな音だからこそ良いのだ、とも思える。とはいえこの感覚が「チープさ」へのフェティシュなこだわりでしかないとすると、その「チープ」さを「豪華さ」に入れ替えたとしても、別にそこに本質的な違いはないということになってしまう。

・Strings Of Life (RHYTHIM IS RHYTHIM)

https://www.youtube.com/watch?v=vGFw2qeUp0s

チープさは、ぼくにとってはフェティシュではなくて条件だ。ぼくだって大金をかけた豪華な作品を作ってみたいという欲望がないわけではないが(そして、大金をかけた豪華な作品を否定しようということでも勿論ないが)、現状ではそれは無理だし、このようなご時世では今後ますます無理になるだろう。そんな時に思い浮かべるのが、たとえば初期のスティーブ・ライヒだ。下の動画ではライヒが自分で「演奏」している。

・Steve Reich & Wolfram Winkel - Clapping Music

https://www.youtube.com/watch?v=hH1j06bMHDQ

この「曲」は12拍子(8分の12拍子)のリズムパターンだけでできている。二人で演奏され、一方の人が最初のリズムパターンをずっとキープして、もう一方の人は、基本パターンを8回(あるいは12回)繰り返すごとに8分音符一個分だけズレていく。最初の(8回、または12回でワンセットとする)一周目はユニゾンで、だんだんズレていき、セットを繰り返すと13周目でまたユニゾンに戻る。仕組みとしてはたったこれだけのことだ(「これだけ」といっても演奏する人は大変だろうが)。

(こういうのはシーケンサーを使えばわけなくできるのかもしれないが、必ずしもきっちり正確にできるわけではないかもしれない「人」がやる、というところに面白みがある。)

最小限の構造(というか「仕組み」)と、最小限の資源(二人の人の四つの掌)だけでできているが、聴いてみれば分かるが驚くほど豊かなリズムが聞こえてくる(複雑なグルーブを感じる)。これは、アフリカ的なポリリズムの「感覚」を生み出すための最小限の装置としてライヒが考えだしたものだろうと思う(あくまで「感覚」であってアフリカ的ポリリズムそのものとは違う)。ミニマルな資源しかないところで、できるだけシンプルな仕組みを用いて、そこからできるかぎり豊かな表情(感覚)を引き出すこと。これは「作品」というものを考えるとき、ぼくにとってとても重要な参照項となる。

この最小限の資源を、もうちょっとだけ増やしてやるだけで、ここまで豊かなものになる。

・Steve Reich Music for Pieces of Wood (Full) | LSO Percussion Ensemble

https://www.youtube.com/watch?v=i4JQD0cy87I

たとえば、戦争で焼け出され、住処を失い路上での生活を余儀なくされたとしても、リズム感のよい人が二人いればこの曲を演奏できるし、この曲で踊ることもできる。そんな時でもおそらく「芸術」は必要だ。

⚫︎二人でする「Clapping Music」を一人でやる強者もいる。

・Steve Reich - Clapping Music - solo snare drums version

https://www.youtube.com/watch?v=4Iyp91Jeuxo

(たとえば半ば西洋音楽であるファンク等においては、グリッドとなる正確なリズム・パルスが想定され、そのような中心・重力からの逸脱によってグルーブが生まれるとして、アフリカ伝統音楽のポリリズムでは、それぞれ自律した複数のリズムが同時・同等にあって、基準となるグリッド・中心がない。ライヒの「Clapping Music」でも、基準となるパターンがあってそれがキープされるが、それはあくまで演奏者にとっての基準で、聴く側にとっては、基本リズムもズレるリズムも同等にあって、というか混じってしまって、ただズレを感じるたけけで、ズレる方のリズムを「基準からのズレ」と感じながらは聴かないだろうと思う。だからポリリズム的な「感覚」が生じるのではないか。)

(二つ目の「Music for Pieces of Wood」でも真ん中の人が基本リズムをずっとキープする。このような基準がないと演奏できないのかもしれない。