⚫︎つまらない懐古話に過ぎないが、80年代の後半から90年代のはじめくらいの時期(浪人生から大学生くらいの時期)には、音楽をほぼ聴かなくなっていた。当時は音楽の再生装置すら持っていなかったと思う。
それは、その時期の音楽が(これは日本のポピュラー音楽に限っての話だが)どうしても好きになれなかったからだった。アルフィー、レベッカ、米米クラブ、BOOWY、TMネットワーク、X、渡辺美里、プリンセス・プリンセス、爆風スランプなどや、その後の、イカ天発祥のバンドブームから出てきたバンドなどを、良いと思えなかった、というか「嫌い」だった。今、聴くと、(大好きとまでは言わないにしても)必ずしも嫌いというわけではないが、当時は嫌だったのだ。また、アイドルも、おニャン子クラブが出てきて以降、面白いとは思えなくなった(今なら、南野陽子の曲はけっこう好きだけど)。男性アイドルにしても、初期の田原俊彦は好きだったが、少年隊以降のジャニーズには全然興味を持てなかった。
80年代初頭(中学生時代)が、ぼくにとっての、さまざまなポップカルチャーやサブカルチャーとの衝撃的な邂逅の時期だったとすれば、80年代後半(浪人生から大学生)は、その時にポジティブだと思えたもののことごとくが色褪せていくように感じられた時期だった(これは「音楽」に限らず)。だから、ポップカルチャーよりも芸術や思想の方が断然面白いと思うようになった。あるいは、音楽よりも断然映画だった。
おそらく、5、6年くらいのブランクがある。そして、再び音楽を聴くようになったきっかけが、ピチカート・ファイブとオリジナルラブだった。90年代はじめに、当時深夜テレビなどのメディアによく出ていたのでオリジナルラブを先に知り(「月の裏で会いましょう」は深夜ドラマの主題歌だった)、どうやら「シブヤ系」というものがあるらしいと知った。そしてその流れでピチカート・ファイブを知ったのだったと思う(「スウィート・ソウル・レビュー」はCMに使われていもいた)。
だからぼくにとってシブヤ系は音楽における文芸復興(ルネサンス)みたいな感じで、80年代初頭に音楽で新鮮に驚いたのと同じような感覚で、再び、音楽に驚くことができるようになった。そしてそれをきっかけに、90年代半ば以降は以前よりは幅広く音楽を聴くようになった。それは、90年代が円高の時代で、ロックやジャズだけでなく、クラシックも含め、スタンダードな名盤といわれるものが輸入CDとしてかなり安く買えたということも大きい(新作ではない古い「輸入名盤」はアルバム一枚が5、600円くらいで買えたと記憶している)。とはいえ、経済力の問題があるので、マニアといえるほど深く掘れるわけではなかったが。
(80年代はじめには音楽の情報源は「サウンドストリート」などFMかAMのラジオだったが、90年代にはラジオを聴く習慣がなくなっていたので、情報源はCD屋の店頭だった。視聴コーナーやポップだけでなく、CDの陳列の仕方そのものが情報だった。空間の配置が情報となった。これは本屋も同じだ。音楽雑誌を、つまり、レビューや批評やインタビュー記事などの「言説」を、ぼくは音楽ではまったく通っていない。店頭のポップも言説といえば言説だが。)
なんでいきなりこんな話を始めたかというと、野宮真貴が尾崎亜美の「マイ・ピュア・レディ」をカヴァーしているのを見つけたから。そしてそれがとても良かったから。80年代の新鮮な驚き(尾崎亜美)と90年代の新鮮な驚き(野宮真貴・ピチカート・ファイブ)が重なって現れているいるさまに、おおっ、と思ったからだ。
・マイ・ピュア・レディ (Live) 野宮真貴
https://www.youtube.com/watch?v=Cl940mQZyGs
(ところが、調べたら「マイ・ピュア・レディ」の発売は77年だった。困ったことに、この事実により今日の話が根底から崩れる…。79年くらいならともかく、77年を80年代初頭とするのは無理がある。リアルタイムではなくラグがあるのだ。さらに調べると、ぼくが80年か81年くらいに、貸しレコード屋から借りてきて、テープに録音して繰り返し聴いていた尾崎亜美のアルバムは「PRISMY」のようで(ジャケットの写真に憶えがあった)、これは78年発売だった。このアルバムには「マイ・ピュア・レディ」は収録されていないが、有名曲なのでシングルを別に借りたのかもしれない。いずれにしろ、70年代終わりの尾崎亜美を、ぼくは80年代はじめ頃に、貸しレコード屋で借りて聴いた(発見した)ということだ。「発見した」と言っても、アイドルなどに曲を提供するソングライターとして有名だったから、その人のソロを聴いてみてハマった、ということだが。それでぼくにとって「マイ・ビュア・レディ」は80年代初頭の曲という認識・思い込みになっていたのだ。このラグは、貸しレコード屋という「アーカイブ」の効果だと言える。)
⚫︎とにかく、かっこよかったのだった。
・ORIGINAL LOVE 月の裏で会いましょう
https://www.youtube.com/watch?v=qhlzRA887FQ
・ピチカート・ファイヴ - Soul Revue (Live 1993)