アメリカで重力波の検出に成功したということなので、以前「サイエンスゼロ」で重力波望遠鏡KAGRAが紹介された回の録画を観直していた (この時点ではまだノーベル賞を受賞していなかった梶田隆章さんが出ている)。放送は一昨年の11月。番組では、前半に、アインシュタイン方程式を示して重力波とはどんなものなのかを解説し、後半に、それをどのような方法で検出しようとしているのか、その時に何が困難でそれをどう克服するのかを解説していて、理論篇と工学編みたいになっている。
一般相対性理論によると、重力とは時空の歪みであり、時空の歪みは質量によって生じる。そして、質量をもつ物が運動すると、その「歪み」が波として空間を伝わる。これが重力波である、と。
アインシュタイン方程式は「時空の歪み(幾何学)=質量(エネルギー)」という形になっている。「時空の歪み」の大きさと「質量」の大きさは釣り合う、と。ここで、重力波が伝わる何もない時空を考えるので、方程式の質量の項(右辺)をゼロと置く。左辺の「時空の歪み」を「平坦な時空」とそこからの「ズレ」の二つに分解する。その上で、左辺をいろいろ変形してゆくと、平坦な時空からの「ズレ」の度合いが「sin何々」という形の関数であらわせる式になる、と。つまり「ズレ(の時間的変化)」が「波」の形をとる。だから、「波」として伝わる「空間の歪み」があるはずである、と方程式から導かれる。
(他にも、アインシュタイン方程式をある特殊な条件で解くことによって、ブラックホールが予言されたり、宇宙の膨張・収縮が予言されたりした。重力波とは違い、これらのことはアインシュタインが予言したのではなく「アインシュタイン方程式」が予言した。現実から導かれたある論理があり、その論理から導かれた別の論理があると、その論理もまた現実に当てはまってしまう、というのは不思議なことだ。この世界は何故か「論理的に整合」であるように出来ているようなのだ。)
で、重力波が測定されることが何故重要なのか。世界中にいくつもの巨大な観測施設が、大きな予算を使って既に作られているということは、装置の精度さえ上げればいつかは検出されるだろうと思われていたからで、つまり重力波は既に確実視されていて、いまさら、一般相対性理論の実証が問題なわけではないだろう。それは、最後の詰めではあっても新たな発見というわけではない。
(とはいえ、理論が技術に編み込まれ、技術が理論に編み込まれていることが自然科学の強さだとすれば、重力波が実際に観測可能なくらいにまで技術が向上したということは、それ自体で重要で、そもそも「ある理論を実証するための実験を考え出してそれを実行する」ということは、理論とは別の意味で、自然科学のクリエイティブの重要な半面であるだろう。)
この宇宙が生まれてから「光(電磁波)」が生まれるまでに既に三十万年の時間が経っていたので、それ以前のことは光の観測からは分からないが、「重力波」は、ビッグバン直後のインフレーションの時期から存在すると考えられるので、「光」以前のことがいろいろ分かるのではないか、という期待が重要なのだ、と。あるいは、重力波は物体を通り抜けるので星の内部の情報も取得可能になるし、ブラックホール誕生の様子を調べることも可能になる。重力波観測の世界的ネットワークを使った、全く質の違うあたらしい重力波天文学をはじめることができる、と期待される。特に、インフレーション期に生じた「原始重力波」を検出することができれば、インフレーション理論の決定的な根拠となり得る。KAGRAの究極の目標はそこにある、と。
今回、重力波を検出したというアメリカのLIGOの精度では、観測可能な重力波が地球に到達する頻度は150年に一度くらいの確率であると、一昨年に放送された番組では言われていて、KAGRAが完成すれば観測精度が上がるので、それが1年に10回程度にまで増えるだろうとされていた。つまり今回の検出は、150年に一度の幸運が訪れたということなのだろうか。あるいはLIGOの技術進歩があったのか。後者であれば、今後はもう、重力波は観測されてあたりまえ、みたいな感じになるのか。まあ、そうでないと重力波天文学ははじまらないけど。